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第12話

「それってお前、わざと負けてんじゃね?」


「……わざとじゃない。」


「わかるよわかる。俺だって年下の女にゲーム持ちかけられたらソッコー負けて食われる道選ぶもん。」



いい年した男が上唇にビールの泡つけて「もん。」じゃねえわ。白雪姫に出てくる七人の小人並に可愛くない。



「てかよく考えてもみろよ。オークションなんて高値つけりゃいくらでも競り落とせるべ?」


「高値で仕入れて売れないと怖いじゃん。」


「ま、高値で仕入れても、100%の確率で売る実来には俺くらいしか勝てやしねえって。もし実来が女の娘なら絶対わざと負けるけどな。」


「話が堂々巡り。」



居酒屋 絆花ほのか。20席にも満たない小さな店内のカウンター席に並ぶこの男と私。で、わざと食われる話をしている。




「いいなー年下のセフレ〜」



カウンター向こうのキッチンで、皿を洗いながらそう羨望するのはギャル雑誌『RUNRU』時代のモデル仲間、穂咼ほのかみちる。彼女はこの居酒屋の店主の嫁。30歳にしてすでに子供が3人もいる。



しかしながら彼女の後ろではその旦那が明太筑前煮を煮ているのだから、今のセフレ羨望発言は大丈夫なのか。



「みちるー!聞こえてるぞー!」

「ごめんねダーリン。」

「ちくしょう!動揺して明太子多めにいれちゃったじゃねえか!」

「そんなヨッシーも好き。」

「ヨッシーも!」



ラブラブなご夫婦で羨ましい。



私が「らぶいのうざいな。」とご夫婦を見つめていれば、隣の席の男が私の腰に手を回し、妖艶さを演出しながらほざいた。

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