第六話 シルバ・ファクトリー①
「うーん、機械かぁ。ご期待に沿えるのがあるか分からないけど」
「ふん、何をしおらしくしておるのだ。いつもはドヤ顔でうるさいくらいに語るではないか」
「むうう、いいじゃないか。俺だって自重する時はするんだよ」
シルバの様子をうかがっていた僕には、彼の視線がちょくちょくレイラに向いていることを把握していた。その推測を確信にするために、レイラに話しかける。
「そう言えば、レイラって頭いい人が好みなんだよね?」
「そうですね。知識が豊富な方は尊敬いたしますわ。ユーリ様も私の知らない知識をたくさんお持ちではありませんか」
確かに言われれば、僕の知識は現代日本、この世界から見れば異世界の知識だ。レイラが僕に対して友好的なのも、かつて大賢者と言われたロベルトに付き従っていたのも、そう考えれば納得できる。
チラチラとシルバの方を見ると、明らかにこちらを気にしていた。それだけでなく、控えめな性格を演出してしまったことで、知識の豊富さを披露できなくなったこともあり、先ほどよりも挙動不審になっていた。
「しかたない……。助け舟を出すか……」
僕は小声でつぶやくと、シルバの方へと向かい上目遣いで話しかける。
「ねえねえ。シルバって古代文明の機械に詳しいんでしょ? 色々と教えてくれると助かるんだけど……」
「あ、ああ。もちろんさ! せっかくだから、僕の家に来ない? 実物を見せながら説明できるし……」
「ああ、いいね。クロもいいでしょ? レイラも良いよね?」
僕はクロとレイラの方に向き直って、微笑みながら尋ねた。
「ああ、我はユーリがしたいことなら、問題ない」
「私もユーリ様についていきます」
「よし、じゃあ決まり。この四人でシルバの家に行ってみようか。僕がクロの背中に乗って……」
そう言って、ちらりとシルバの方を見ると、懇願するようなつぶらな瞳で僕を見つめていた。分かっている、とウインクをして言葉を続ける。
「レイラはシルバに乗ってもらうってことでいいかな? ちょうどドラゴンが二人だし……」
「問題ありませんよ。では、シルバ様。よろしくお願いしますね」
レイラはシルバに微笑みかけると、ピシッと直立したまま硬直する。
「は、はいいぃぃ! よ、よろしくお願いしますぅぅ!」
もはや最初の印象など欠片も残っていないシルバを見ながら肩をすくめる。
「気になるか? シルバは本命じゃない女性にはイケイケなんだがな。本命と思った女性には、あんな感じになるのだ」
「ヘタレ男子かよ……」
クロといい、シルバといい、ロベルトといい、恋愛偏差値が低すぎである。百年以上生きているはずなのに……。
何はともあれ、話はまとまった。僕はクロに、レイラはシルバに乗って、目的地へと向かう。そうは言っても街の近くにある黒竜山脈の中なので、飛んでいけば一時間とかからない。
家、と言っても竜のねぐらだ。僕たちからしたら、洞窟と言っても過言ではない。
「ど、どうかな? 俺の家は……」
「洞窟ですわね」
「洞窟だね。少なくとも、僕たちの言う『家』ではないかな」
自分の家、もとい洞窟をボロクソに言われて肩を落とすシルバ。突然何かを思い出したように洞窟の奥へ向かうと1枚の赤みがかったドアを持ってきた。僕は既視感を感じたけど、それにツッコむような無粋な真似はしない。
「ふふふ、これならどう?」
「ドアですわね」
「ドアだね。少なくとも(略)」
同じようにボロクソに言われたが、今回の彼は怯まなかった。腰に手を当てて仁王立ちになると、扉を置いて手で指し示す。
「これは一見普通のドアだ。でも、この扉を開けると、中は豪華なコテージになってるんだよ!」
そう言って扉を開けると、なるほど豪華な内装の室内になっていた。
「うわ、凄い。スイートルームみたいだ」
「ホントですね。水も普通に出るみたいですし、簡易的なキッチンまで……」
「ふふふ、これは古代帝国の将軍が遠征した時に使ったものらしいんだよ。どういう技術か分かっていないけど、水や食料なんかは自動的に補充されるようになっているんだ」
なるほど、野営でも快適に過ごせる、というわけか……。
「何せ、ドアを運ぶだけで家ごと移動できるからね。扉を開けたら二分で戦場ってわけだ。頭いいよね」
「それはどうなの、って気がするけど……。負けたら家の周り敵だらけってことだよね?」
「そうそう。その将軍は結局、夜のうちに友軍が敗走して、扉自体を壊されてしまったんだ。それで引きこもりのまま一生を終えたらしいよ」
シルバの表情はまるで引きこもりになった将軍を侮蔑するようなものだった。それにクロも大きくうなずく。
「まったくだな。一生引きこもるなど……。愚かとしか言いようがないな」
「そんなこと言ってるけど、クロも引きこもってたでしょ……」
「くははは、我はせいぜい数百年というところだ」
せいぜいと言いつつ将軍の軽く十倍は引きこもっているクロにため息しか出ない。だが、これで滞在中の不安は無くなったのは事実。あとはシルバに古代文明の機械を見せてもらうだけだ。
「それで、さっき話してた古代文明の機械なんだけど……。特産品を作るのに役に立ちそうなものはないの?」
「うーん、あるにはあるかな……。ちょっと待っていて、家の前に持ってくるから! レイラさんは家の中でゆっくりしてって」
シルバは会話をしている僕ではなく、なぜかレイラにゆっくりするように言い残して外に出ていった。しばらくすると、シルバが準備できたと言いながら中に入ってきたので、四人で外に出る。
「機械がいっぱい……」
「私にはわかりませんね……」
「ふっふっふ。そうだろうと思って、この装置の近くにしまわれていた古文書も持ってきたんだよ」
シルバが懐から取り出した古文書? そこには『チョコレート工場組み立てキット マニュアル』と日本語で書かれていた。
「どう? 凄いでしょ。僕は古代文明の言語も研究していてね。その結果、この古文書が装置の使い方について書いてあることを突き止めたんだ!」
ドヤ顔で語るシルバ。チラチラとレイラの方を見ている様子から察するに、褒めて欲しいのだろう。
「わあ、すごい(棒読み)。とりあえず、その古文書を貸してくれない?」
「別に良いけど、簡単に読めるものじゃないからね!」
シルバがあからさまに警戒の色を見せている。仕方ないので、レイラに目配せすると、かすかにうなずいた。
「シルバさん。凄いですね。古文書も見せてもらっていいですか?」
「もちろん、俺も使わないし、レイラさんにプレゼントしちゃうよ!」
いくら何でもチョロすぎだろう。そのお陰で、こうして無事に古文書を手に入れることができたわけだが。さっそくレイラから受け取って中身を読んでいく。
「なるほど、これが粉砕機、これが圧搾機、これが乾燥機、これが発酵装置で、これが成型装置、キャンディコーティングまでできるのか……」
僕がペラペラと読んでいると、シルバの顔色が青くなっていく。
「ちょっと、何で普通に読んでるのさ! 俺だって解読するのに十年以上かかったのに……」
「くはは、我のユーリをお前ごときと一緒にするでない」
クロ、さりげなく自分のものにするな!
「くそぉ、だが俺にはレイラさんが……」
シルバ、さりげなくレイラを自分のものにするな!
「甘いぞ。レイラはユーリの従者。すなわち我のユーリのものだ。だからレイラも我のものだ! 痛っ!」
「無駄に張り合わない! 僕の邪魔をするなら、二人とも帰ってもらうからね。レイラと二人で頑張るから」
「帰るも何も、ここは俺の家……」
僕が仁王立ちになって睨みつけると、二人ともドラゴンとは思えない勢いで委縮してしまった。二人はおもむろに地面に膝をつくと、そのまま土下座を始めてしまった。
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