第五話 協力プレイ①

 案内された会議場は騒然としていた。それもそのはず、スタンピードは街にとって相当な脅威。それが例え小規模だったとしても。


「予定だと、明後日には街に押し寄せてくるんだぞ! 対応策を早く決定してくれ!」

「だが、しかし、そんな、どうしようも……」


 町長と思われる口ひげを生やした身なりの良いオッサンが、冒険者と思われる筋骨隆々の男たちに詰め寄られて困惑していた。ヤクザみたいな連中に詰め寄られたら、そりゃ委縮するよね。


「のんびり見ていて良いのか? ユーリは領主だろう?」

「あっ……」


 ここで出て行っても、僕が町長の代わりになるだけだろう。どうしようかと考えている僕に、とあるビジネス書に書かれていた言葉が降りてきた。


『全ての意見を出し尽くした後に、最善の方策は舞い降りる』


 これだ。とりあえず、町長には犠牲になってもらうとしよう。


「まだ、出るには早いよ。ここは時を待つのがベストだ」

「ふむ……。どうやらユーリに考えがあるようだな」


 しばらく待っていると、冒険者たちも言いたいことを言い尽くしたようだ。


「機は熟したようだね。それじゃあ、行こうか」

「ああ」「かしこまりました」「オッケー」


 僕の言葉に、クロとレイラ、それからシルバが答える。一足先に町長と冒険者の間に立ち、高らかに宣言する。


「僕が、この領地の領主。聖女ユーリだ。君たちの話は聞いた。後は全て僕たちに任せてくれればいい!」

「ど、どういうことだ?! 聖女がこの地の領主? 聞いていないぞ。そもそもお前たちだけでスタンピードがどうにかなる訳ないだろう!」


 冒険者のリーダーと思しき男が焦った様子で詰め寄ってくる。しかし、軽くクロに引きはがされて、地面に転がされた。


「貴様、我のユーリに汚い手で触れようとしたな? 塵一つ残さず消し――」

「待って、クロ」

「ひぃぃぃ」


 凄まじい殺気を放つクロを一声で止める。それだけで僕を実力者だと勘違いする者が多かったらしい。冒険者とはいえ、辺境の地で活動しているような連中だ。その辺の機微には鋭いのだろう。


「たった四人だけ。それでスタンピードを防ぐことが難しいのは、もちろん分かっているよ。だけど、伝説の竜の聖女である僕。それから……、ここにいるクロとレイラとシルバ。これだけで撃退するには十分だよ」


 普段の僕はおまけみたいな立ち位置だけど、今回は違う。迎撃兵器も使えるようになった。今の僕には隙が無い。かつてゲームセンターで何百枚ものコインを犠牲にラスボスまで行ったのが懐かしい。


「分かったよ。そこまで言うなら信用してやる。だが、俺たちもいつでも出れるようにしておくから、厳しそうならすぐに言ってくれ」

「分かった。ちなみに領主になったのはつい先日の話だからね。しばらくしたら王都から連絡が来るだろう」

「ふん、それはどうでも良い。今はスタンピードの解決が先だからな」


 僕が竜の聖女と呼ばれたことは、恐らくこの地までは届いていないだろう。だけど、そのネームバリューと、僕がクロという実力者を従えていると言うことから、信頼に足ると判断してくれたようだ。



 二日後、僕たちは街の防壁の前で準備をしていた。僕が防壁の上の迎撃兵器で弾幕展開、クロが最前列で魔物を掃討。シルバは左右に敵が広がらないようにしつつ、数を減らす。それでも漏れてきた魔物をレイラがトドメを刺すという万全の布陣だ。


「スタンピードが来たぞぉぉ!」


 斥候の人の合図と共に、僕たちは迎え撃つ準備を整える。あとは、この迎撃兵器で魔物達を蹂躙するだけだ。しばらくすると、森から大量の魔物達が出てくる。何かから逃げるように暴走した魔物達は街へと一直線に向かってきていた。


「もう少し、引き付けて……ファイヤァァァー!」


 射程距離に入ってきた魔物達に向けて迎撃兵器を発射する。みるみる溶けていく魔物たち。そこからの討ち漏らしをクロが迎撃していく。クロを回避しよう左右に展開した魔物をシルバが謎の魔法で凍り付かせて足止めをしていた。


「おお、すげええ」

「さすが聖女様だ」

「四人だけって、最初はどうなるかと思っていたけど、三人だけで撃退してるわ」


 そうである。最後の砦として用意していたレイラは、今のところ出番がない状態だった。まあ、レイラの出番があるということは、押されているということなので、良いことではあるんだけどね。


「あれ、もう打ち止め? 早くない?」


 僕が調子に乗って撃ちまくっていたからなのか、一分ほどで魔物が森から出てこなくなってしまった。


「ふむ、どうやら向かっていた魔物達がUターンして戻っているみたいだぞ」

「マジか……。根性ないね」


 せっかく調子が出てきたというのに、これじゃあ消化不良だ。


「無理もないさ。クロが少しでも出したら、黒竜の気配が漏れるからね。魔物はそういう気配に特に敏感だから……」


 どうやら、黒竜から逃げるために発生したスタンピードは、逃げた先にも黒竜がいたことで空中分解してしまったようだ。だが、数が少なくなったとはいえ、大物はクロの気配を無視して街へと突撃してくる。


「うーん、数が少ないから爽快感は無いけど、撃ちまくれるし、いいかな」


 おそらく高位の魔物だろう。巨大な魔物がちらほらと出てきているが、ほぼ全て迎撃兵器とクロの前に灰燼と化していた。


 その後、冒険者の人から自分たちも魔物と戦いたい、と言われたので、後半は譲ってあげることにした。高位の魔物は狩れる機会がほとんどなく、素材が高く売れるので、灰燼にされると困るそうだ。素材の欠片すら残らないからね。


「よぉぉぉし! 大漁大漁! 今日は派手に宴会だ!」

「「「おぉぉぉ!」」」


 冒険者のリーダーと思しき人が、譲ってもらった魔物の素材を抱えてほくほく顔で戻ってきた。冒険者にとっても高位の魔物と戦うのは命の危険が伴う。だけど、それはあくまでダンジョンとかで人数が限定されている場合だ。平原にぽつんと出てきた魔物は数十人の冒険者にタコ殴りにされて、瞬く間に撃沈されていた。人数が多い分、分け前は減るらしいけど、それを補って余るほどの収入になるらしい。


「もしかして、クロとかシルバの鱗って、メチャクチャ高く売れたりするの?」

「ん、何だ急に。今は分からんが、かつてはそれなりの価値があったらしいぞ」

「ユーリ様……。クロ様やシルバ様はただの竜ではありません。古代竜、それも色持ちです。その鱗は一枚でも家が建つほどで売れましょう」

「マジか。そんなのを気軽に使ってたのか……」


 僕はレイラの言葉に冷や汗が流れ落ちるのを感じた。それだけじゃなくて、身体が変に震えているような気もする。そんな僕の状態をクロは笑い飛ばした。


「くははは、ユーリが望むなら、鱗の一枚や二枚、安いものだ」

「クロは良いだろうけど、俺はこれ以上はあげないよ……」


 僕たちが勝利の余韻に浸っていると、冒険者のリーダーっぽい人がやってきた。


「聖女様。今晩は冒険者たちが大規模な宴を開かれるようで、是非とも立役者の聖女様にも参加していただきたく……」


 僕たちがスタンピードをあらかた倒したということで、僕たちも宴に参加して欲しい

 らしい。


「どうする? クロ」

「参加すれば良いのではないか? もう視察も十分だろう」

「そうだね。それじゃあ、宴の後はデートだね!」

「おお、ついに初デートというヤツか。王都では邪魔が入ったからな!」

「それじゃあ、まずは宴に行こう」


 僕たちは、冒険者に連れられて夜更けまで宴を楽しんだのだった。

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