第9話



「安斎さん、先程の人はよく来るお客さんなんですか?」


 未来は何となく2人を見送ったあと、レジ付近にいる安斎に尋ねた。


「女の子は初めて見たわ。はるかさん……あ、男の人のほうね、お客さんというよりは仲介してくれる人かしら」

「仲介?」

「そうそう。うちの商品を大量に購入してくれる大口のお客さんを紹介してくれたのがさっきの人。2、3年くらい前からの付き合いかしらね」

「そうなんですね」


 先程の取材の話にも出てきた、年に数回大量に文具等を購入してくれるという話に繋がっているようだ。

 それならば、仲が良いように見えたのにも納得がいく。


「そうだ、その彼がね、最近お店を出したんですって」

「お店?」


 聞き返すと、安斎が名刺サイズの紙を渡してきた。

 黒を基調として、シルバーで文字が書かれている。


「ダイニングバー……あれ、でもお店の名前書いてませんね」

「あら、そうなの? とりあえず、開いたばかりだから、お知り合いにでも渡してくださいって。下山さん、時間があるなら行ってみたらどう?」

「そうですねぇ……」


 正直、新規店舗というのに惹かれる。つまり、まだ誰も目をつけてない可能性があるからだ。


 ──ついでに、中央区のグルメレポートを提案するのもありか。


 仕事と称して、美味しいものを食べれるのは嬉しいことだ。だけど、北区の人がそう簡単に中央区に来れるわけじゃないので、需要はなさそうなのだが。


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