第2話 アスリオン帝国と魔王

 アスリオン帝国、その名を聞けば他国の者が顔を歪めこう思うだろう。

「暴虐の限りを尽くす国」「悪の権化」「最恐の騎士ガザンのいる国」

そう、アスリオン帝国ほとんどの国が刃向かえない程の大国であり、そして強大な力を持って他国を侵略する悪魔のような国なのである。


 アスリオン帝国の皇であるサハリンは常々思っていた。

「この余が世界を統一する、それは必然である」と

そして今や誰もが恐る魔王ですら余の手にかかれば造作も葬る事が可能だと。


 だからだろうか、このモノに、魔王に目をつけられたのは…




 魔王の側近であり、実力は魔王を除けば最強である鬼キザンは偵察隊からある話を聞いて、心の底から笑っていた。

「まさか帝国が!魔王様を差し置いて世界統一をしようと!はっはっはっは!なんと愉快な!」

「私もこの話を聞いた時は驚きのあまり数分固まりましよ。まさか魔王様すらもこの余の手によって葬るなどと言っているのですから」

そう言ったのは美の女神ですら裸足で逃げ出すのでは無いのか、そう思うほどの美貌を持っているヨミであった。

「はっはっは、賢王であるヨミでもこれは予想できなんだか」

そう、彼女は世界でただ1人、賢王と名乗る事が許されているほどの智を持っている人であり、その称号は一国の王と対等に話せるほどである。また彼女はある大国の王の娘でもあるのだが

「当たり前です。まさか魔王様に勝てると思う者がまだこの世にいるなど、誰が予想出来ますか」

「それもそうだな、まさかエステック国を更地に変える程の力を見せられながら、そのような事を考える者がまだいるとはな。しかし、そうなるとそれほどまでにあのガザンなる騎士はつよいのか?」

「どうでしょう、私もこの目でガザンを見た事はないですが、彼の国はガザンが居るおかげであれ程まで強気でいられるようですし、実際に強いのかも知れませんね」

「ふむ、ならば一度戦ってみたいものだな。して、話は変わるがヨミはここにいて大丈夫なのか?今日は学園の大会があったとおもうのだが?」

ヨミはまだ18歳であり、学園に身を置くものであり、今日は年に一度の武道大会であった。

「それなら大丈夫です。まだ私が出るまで時間はありますので」

「そうか、無用な心配であったな」

「いえ、心配していただきありがとうございます」

「しかし、この話をする為にここに来たのではないのだろう?」

「ええ、本日は魔王様な会いに」

「む、ここに来られるのか?いつだ?」

「それは——」

「——やぁヨミ、わざわざ来てもらって悪いね。それとキザンも、君にも話したい事があったんだ」

 2人しか居なかった部屋に急に現れたのは大凡どこに居てもおかしくない、ヨミと変わらない歳の少年だった。

 しかしその少年を見た2人の行動は王に対する様に、その場に跪くものだった。

 最初に声を発したのはキザンだった。

「これは魔王様、気付かぬご無礼お許しください。して、何故この場に?」

「それはね、2人に伝えたい事があったんだ」

そう答える魔王に頬を染めたヨミは尋ねた。

「それはアスリオン帝国のことでしょうか?」

「あぁ、そうだよ。すごいよねあの国、まさか俺たち勝てるって思ってるんだから。まぁでも、正直見るに耐えない国でもあったからいつかはやっちゃおうと思ってたんだけど、いい機会だしあの国を滅ぼそうかなって」

そう言いながら笑っている魔王だが言葉は強く重たいものだった。

それを感じとった2人は顔を強張らせながら即座に答えた。

「では速やかに彼の国を滅ぼして参りましょう」

 そう答えたキザンに魔王は予想を裏切る形で答えた。

「うん、あの帝国は滅ぼすんだけど、直ぐにではないよ」

そう答えた魔王は続けて

「どうも強気すぎると言うか、なんだか変に感じるんだよね。それこそ俺たちに対抗しうる策があるんだろうさ、ガザン以外にも。だからそこを先に調べたいと思ってね」

「そうでしたか、これは失礼いたしました。しかし、そうなると俺ではではなんのお役にも立てないかと」

「そんな事はないけど、まあ今回は適任というか、丁度良いタイミングでアスリオンからの皇子が留学でヨミがかよっている学園にいるようだし、ヨミに任せようかなって」

「はっ、でしたらお任せを。彼とは知らない仲ではありませんので」

「うんうん、そうだね。でも、万が一ヨミに何かあったら大変だからさ、俺も学園に潜入しようと思ってるんだ」

「「えっ?」」

「そういうことだとだから、学園で会ったらよろしくね〜」

そう伝えるや目の前にいたはずの魔王の姿は何処にもなかった。



 

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平和の為の魔王 マスオ @masyo4114

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