第27話

ギョッとしたのはたぶんあたしだけじゃない。


自分の驚きを後回しにして沙良のほうを見ると、案の定、沙良は軽蔑するような眼差しを結依に向けて固まっていた。


まるでR指定のような顔に、それこそクラスメイトには見せられないな、と見当違いなことを思う。



そんなドン引きした沙良をたっぷり30秒眺めていると、ふいに意識を取り戻した沙良はフルフルとかぶりを振った。




「辻村君の顔が美形じゃなかったら間違いなく吐いてたわ。」




真顔で言いきった沙良。


どうやら結依の"顔の良さ"だけは認めているらしい。


結依もフッと唇の端を上げ、悪戯に目を細めて沙良を見つめる。




「俺だって顔に見合わないことは言わないよ。」



「あなたのそういうところが嫌い。」




そう言って、タメ息を吐いた沙良は広げていたパンをおもむろに片付け始めた。




『沙良?』




あたしは早々に立ち去ろうとする沙良を見上げ、首を傾げる。


もう戻るのかな?と思ったら、やはり沙良はいきなり立ち上がるなりあたしたちを見下ろした。


片方の手には、だいぶシワくちゃになったコンビニの袋がぶら下がっている。




「ワガママ言うやつがいるから先戻ってるわ。またね、美羽。」



「あれ?貸してくれるんだ?」



「どうぞご勝手に。あたしは静かなところで食べたかっただけだし。」



「沙良ちゃんの顔じゃ、クラスの奴らが放っておかないでしょ。」



「辻村君ほどじゃないけどね。」




じゃあね、と、沙良の後ろ姿が階段を下りていく。


階段にはペタペタと反響する足音と、あたしと結依の二人だけが取り残される。

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