好きだって、何度も言った

第1話

――…あぁ、やばい。


埃っぽい匂いにくしゃみをしそうになったあたしは、慌てて息を止めることで間の抜けた瞬間を回避した。


しかし、現状は何一つ変わっていない。


目の前には伏し目がちに押し黙っている男の子。クラスは一緒だけど、喋ったことはほとんど無いに等しかったと思う。



4時間目の授業を終えた昼休み。クラスの男の子に『ちょっと話があんだけど…』と、教室から連れ出されたはいいが、声をかけられた時点でクラスメイトの視線が定まってないことに気づいたあたしは既に気が重かった。


キャーキャーと色めき立った声に背中を押され、逃げるように人気のない踊り場まで連れて来られたのがついさっき。普段から人目を阻んだ階段は埃にまみれ、階段と階段を結ぶ踊り場は壊れた備品やらでごっちゃになっている。


もう少し階段を上った先には屋上へ通じる扉があるのだが、そもそも屋上への進入は禁じられているため、冷やかな静寂と緊張が居心地悪く背筋を撫でた。




「…いきなり、悪い」




気まずげなクラスメイトの背後に【立入禁止】と書かれたプレートが見え、重厚な鉄の扉がまたあたしの気分を重たくさせた。




「…倉持のこと、好きなんだけど」

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