第7話

「僕のこと、知ってるって言ったね?」


「はい」


「どこで知ったの?」


「分かりません」


「分からないのに僕を知ってるの?」


「はい」


「道に迷ったらならタクシー呼んであげるよ。お金がないなら貸してあげるし、駅前の交番なら誰かしらいるんじゃないかな?」




むしろこれは新手の詐欺なのかもしれない。騙せそうなターゲットを見定め、身寄りがないふりをしてお金を騙し取ろうってやつ。まさに今、僕は面倒事の解放と引き換えにお金を渡そうとしている。


スラックスのポケットから財布を抜いて目を反らすと、意外にも目を見開いた彼女は「違います…!」と澄んだトーンで声を張った。




「え?」


「あ…」




前のめりに僕を見上げてくる彼女。彼女も声を荒げるつもりはなかったのか、すぐに口を噤んで足元を見る。泳ぐ目線に初めて感情を見た気がした僕は、微動だにせず彼女を見つめた。


しかし、第三者の足音にハッと意識が逸れた。




「こんばんはー」


「あ…、どうも。こんばんは」

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