第3話

死へ誘うことは難しいことではなかった。幸いにも父は無職だ。朝から晩まで酒に溺れているような父を気にかけてくれる人間なんておらず、蓄積されたアルコールは人としての判断力を鈍らせる。


あたしは父の夕飯に睡眠薬を混ぜた。


家事の一切を引き受けていたあたしにとって、父の夕飯に睡眠薬を混ぜることは薬を手に入れるより容易い。


その日も父はテーブルにうな垂れ、浴びるように酒を飲んでいた。


テーブルにはいくつもの酒瓶が散乱しており、足元には空になったビール缶が無造作に転がっている。そんな慢性的な酒気が漂うリビングを、キッチンに立ったあたしは冷めた眼差しで見つめた。




「お父さん、出来たよ」




焼き上がった卵焼きをテーブルへ持っていく。ふっくらと巻かれた卵焼きに箸が付けられないことは分かっていたが、睡眠薬の効果を認めるまでは普段通りを装った。

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