目指せ最強ウェディング!!
non-mame
第1話 やり直したい
真っ青の海を高い高い岸壁から見下ろして、地元の中学のセーラー服を着た少女、
死ぬことなんて、これまでの人生と比べたらちっとも辛くないし怖くない。けれど、もしも失敗したらという不安が頭から離れてくれない。
彼女は隣で同じように溜め息をつく兄の横顔を見て、意を決して立ち上がった。
「行こう」
この兄妹は三十分程前からこの場所黙りこくっていた。どちらから言い出すかで悩んでいたのかもしれないし、やめようと言うか行こうと言うかで迷っていたのかもしれない。
どちらにせよ利己の言葉が沈黙を破ったことに間違いはなく、高級そうなスーツを着た、しかし明らかに未成年の兄も立ち上がった。
二人の太陽みたいに綺麗な金髪は風に揺れ、その風景を切り取れば映画のポスターなんかにも使えそうだ。そんなことを言っている場合ではないが。
歩幅を揃えて歩き出し、二人の重心がぐらりと下に傾いたその瞬間、ようやく“僕”は動き出した。
『
ふわりと浮かび上がった僕の身体は、空中で妹を受け止め、共同によって連れてこられた僕の相方が兄を受け止めた。
兄は明らかに動揺していたが、利己の方はどこかホッとしたような顔をしていた。その顔を見て僕は確信したことがある。
誰かに助けて貰えるのなら生きたいんだ。それならば――
「もしもこれから人生をリセットできるとしたら?」
今心から苦しんでいる誰もがきっと求めている言葉。リセットしても無意味だと言われれば引くしかないのかもしれないが、この子はやり直すことを選ぶはず。
「リセット……?」
見ず知らずの高校生魔法使いが突然現れて不審だろうに、利己の瞳は微かな光を宿している。その光に応えるのが僕達の役目だ。
「リセットと言うと異世界転生だとか回帰転生だとか思い浮かべるかもしれないけど、転生したって幸せになれる保証はない。僕達が提供するのはあくまでもこの世界での人生逆転さ」
「……私は、私達は、幸せになんてなれない。両親が生きてるうちは、絶対に」
「そんな両親捨てちゃおうよ。君達を行方不明扱いにすることだってできるんだよ。もう一時間だけ待ってからでも死は選べるから、一時間だけ君達の時間をくれない?」
そう言って僕が二人に笑いかけてると、兄妹は暫くお互いを見つめてから同時に答えた
「それで妹が助かるなら……」
「お兄ちゃんが助かるなら、やり直したい」
「うんうん大丈夫! 絶対まとめて助かるさ!! それじゃあいくぞ“ハイコ”」
「任せとけ!」
僕と相方――ハイコが呪文を唱えると、四人まとめて僕達のフィールドにたどり着いた。
緑の生い茂る広い森で、大きな保護×認識阻害のドームに包まれているのは、最近になって作られた兄妹のような人達のための学園。
「服は好きな服をネットで探して貰って無料で提供! 風呂とかキッチンとかその他建物の中にあるものご自由に! 自由に使えるお金もある!
食品無償提供! 学園だから他の生徒と授業を受けられる! 病院規模の医務室や大図書館やネットも! 隔離空間だからここにずっといれば行方不明だ!! 間違っても誘拐や監禁で通報はやめてね!? さぁここで暮らしてみる気は?」
「「あります」」
「はい今日からよろしくーー!!」
この学園は何とも不思議な二人のイケメン男子高校生、そしてその義母が作った恋愛学園。
後に私も兄も騙されたと痛感することになるが、今はそんなことどうでも良かった。夕飯を食べ、お風呂に入り、夜に安心して眠るという当たり前の日常を過ごすことができたのは人生で初めてだった。
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