第8話

[…あ、あぁ、ここに捨てられていたらしい。]



[まだ小さいね。]



[そだねぇー]




わざと軽口を叩き、チラリと横目に見やる。


彼女の視線は子猫から離れない。


その横顔は傘に隠れてよく見えなかったけど、でもかろうじて胸下まで滑り落ちる黒髪が見えた。


ふっくらとした曲線の頬を申し訳程度に隠している。



あまり校則の厳しくない高校で黒髪はめずかしかったけど、でもそれ以外は他の女子高生となんら変わらなかった。



紺色のハイソックス。


白と黒のチェックのスカート。


少し大きめのカーディガンに袖を通し、ボタンを一個外したブラウスには小振りのリボンが飾られている。



俺の周りの奴らは明るく髪を染めたがるけど、でも彼女はあえて黒髪でいるのかもしれない。




堅そうな生徒でもない。


だからといって遊んでいるような生徒でもない。


ごくごくありふれた女子高生。



だけど、俺とはまったく別の部類に分類される生徒。



当時、俺の髪は毎回頭髪検査で引っかかるほど明るかった。




[――…ぇ、ねぇ!]




そのとき、初めて彼女が俺の方を見ているのに気がついた。

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