第3話

夏海の死を知らされたとき、あたしは泣くことしか出来なかった。


ベッドの中で泣くだけ泣いて、そのあとはひたすら夏海の死を信じなかった。受け入れられなかったと言ってもいい。


居なくなってしまったことが信じられなくて、またいつもみたいに名前を呼んでくれるような気がして、いつまで経っても夏海の亡骸を見送ることが出来なかった。


悪あがきするかのように、頑なに生きていると信じ続けたのだ。



去年の夏。


夏海が過去に縛られたままのあたしを抱き締めてくれるまでは…




「大事にされてたんだな」




掃除の行き届いた墓石を見て圭吾が呟いた。


陽だまりが香る、春の昼下がり。あたしは圭吾と一緒に夏海の元を訪れていた。

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