第8話

付き合って2年。


左手の薬指にはダイヤの指輪。



来月、彼とは結婚する。




彼は「もう一眠りしよう。」そう言うと、切れ長の瞳をまぶたの裏側へ隠してしまった。





「香澄も小言を言われるのは嫌だって言ってたじゃないか。」



『そうだけど…』



「結婚したら、今以上に一緒にいてやれる。」




だからもう少しの辛抱だ。


そう言って、ごねるあたしにあやすようにキスをする。





「おやすみ。」




どこまでも優しく扱ってくれる彼に、またタメ息。


そうやって何でも分かっているような顔をされるのはあまり好きではない。



子供扱いされるのだって、大切に扱われるのだって、自分は守られているだけの"女"と言われているみたいで正直ウンザリする。それが、本音。




素直にまどろみの中に身を寄せようとするあたしとは裏腹に、心のどこかに潜むもう一人がそれを頑なに嫌悪し、拒もうとするのだ。




もっと強引に奪って欲しいと、めちゃくちゃに求めて欲しいと、キュッと締めつけられるように心が疼くのだ。

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