ガールズクエスト1
蠱毒 暦
本編
無題 世界を統括するべき存在
微睡みの中で…誰かの声がした。
——◾️は全てを司る…『◾️◾️神』
いずれ『貴女』は、◾️の前に立ちはだかる敵になるでしょう。
その前に教えて欲しいのです。
最後にして、最強の敵になるであろう『貴女』がどういう方なのかを。
……
【冒険に出る時、心が通じ合った仲間を連れていくよりも、強力な武器や防具がある方が心強さを感じますか?】
クククッ…愚問だな。心が通じ合った友と冒険にいく方が心強いに決まっているだろう?武器や防具はただの象徴にすぎない。
……
【何もしないでいると、退屈で退屈でたまらなくなりますか?】
あっはっは!!!そりゃあ、誰だって退屈になるっしょ。私の場合…そんな日にはねぇ…キンキンのビールとスモークチーズが欲しくなるね。ついでに…仲のいいビール友達とかもさ。
……
【困っている人を見たら、助けますか?】
俺は『
……
【早く大人になりたい、または…なりたかったですか?】
なりたかった…昔は、ただの荷物持ちで…皆を助けられなかったから。
……ククッ
ふむ…では、最後に1つだけ…
【もし『彼女』を始末出来たら今、1番欲しているもの全て与えます。さあどうしますか?】
そんなの…は?
【えっ?】
………
……
…
依頼を果たすべく、アタシ達は町外れの森の中にいた。
「…背後から失礼ってね!!!」
バキン☆
「あ。刃折れちった…人じゃないからやりにく…ぶっ!?」
「ククク…どうやら、アタシの出番が来てしまったようだな。」
「っ…
カチカチッ…カチカチ……
背後で、ダリア殿が悠々とライターで火をつけて目にも止まらない速さで、棒付きキャンディーを溶かし口に入れた。
「あちち……ふぅ。」
「ちょっと。棒付きキャンディーを舐めてる暇があったら…」
「……」
巨大な鶏の形をした魔物を一瞥すると、左ポケットに手を突っ込み、20個の大小異なる銃弾を空に放り投げると、薬莢が落ちて背を向ける。
「既に片付けちゃ…ん。片付けた。」
次の瞬間、魔物の上半身が爆散し、遅れてやって来た20発分の銃声が響いた。
「クククッ…!流石は、我がパーティの最強火力を担うダリア殿だ。」
「ちょっ…銃声で、クレイジーチキン達がこっちに来てるんですけど!?」
アタシは
「ならば、アタシも雨天殿と一緒に戦おう!!!」
「手…プルプルしてるわよ。召喚術師が大剣なんて持ってたところで…」
「ククッ…初期ステータスの魔力量がゼロで何も召喚する事が出来ないのだから、仕方ないだろう?」
「ツッコミたい事は山ほどあるけど…今更か。何度も言うけど無理しちゃダメよ。ダリア…弾はまだある?」
「……ふ。」
「ないのね…じゃあ下がってて。
「ああ!!!」
アタシなりに、全力で走っているのだが…雨天殿に全く追いつけず、一度、大剣を地面に刺して息をついた。
「ゼェ…ゼェッ…ククク。速いな…雨天殿。」
「羅佳奈が遅すぎるのよ!!早く来…きゃ…この、邪魔っ!!!!」
……
…
かぽーん
アタシも含め、全員に共通して何が起こったかも分からず、突如…魔物アリアリのファンタジー溢れるこの世界にやって来たそうだ。
非常に幸運な事に魔王と討伐しろとか、国家間の戦争とか、貴族のドロドロとしたドラマにも巻き込まれなかった結果、運悪くアタシ達は、何の目的もなく、無一文で冒険が始まった。
この町の住民票すら持たない異邦人のアタシ達が、まともな場所で働ける労働環境がある筈もなく、3週間以上は町の地下で
アタシの素晴らしき指導(主に茜殿と雨天殿の洗練された仕事ぶり)が評価されたお陰で、住民票を手に入れられた。
その矢先に起きた邪龍騒動で、ダリア殿が町に来た邪龍を瞬殺したことで実力が認められ、冒険者ギルドに参加する事が出来て、こうして汗を流し、生きる為の日銭を稼いでいる…という訳だ。
「ふぃ〜…沁みるねぇ。」
「その…傷の方は平気?」
「平気平気。意外と軽傷で済んだみたいだからねぇ…」
体を洗ったアタシは茜殿の隣に入った。
「ククッ…流石は我がパーティの突撃隊長。タフだな。」
「羅佳奈ちゃん…そこはせめて、斥候隊長とかにしよ?どちらかと言えば、タフなのは橘さんっしょ。」
「フッ。それもそうだな。今回も、雨天殿がいなければ、アタシ達はどうなっていたか。ダリア殿も…」
さっきまで、雨天殿の隣で入浴していたダリア殿の姿がいつの間にか消えていた。
「ダリアちゃん…早風呂だからなぁ。そういう所が子供っぽいというか…橘ちゃん今日、ビール飲まね?」
「唐突に来たわね…嫌よ。明日も依頼があるでしょ?」
「むぅ〜…ケチ。ダリアちゃんも羅佳奈ちゃんもまだ未成年だから、飲み仲間がいなくて辛いんだよ!!!今日くらい…」
「ダメったらダメだからね…」
その様子を微笑ましく見ながら、アタシは立ち上がった。
「ダリア殿を見てくるぞ。1人で待つのは、寂しいだろうからな。」
「そうね。ダリアを勧誘しようとするパーティも多いし…よろしくね。」
「ねーねー、橘さん…いいでしょ〜」
「しつこいっ!!!」
……
…
脱衣所で着替えてから外に出ると、髪が湿ったまま、ベンチに1人座るダリア殿を見つけた。
「ダリア殿…コーヒー牛乳かフルーツ牛…」
「フルーちゅ…フルーツでいい。」
フルーツ牛乳の入った瓶をダリア殿に渡し、隣に腰掛ける。
「クク…夜景でも眺めていたのかね?今宵は、月が綺麗だからな。」
「……」
ダリア殿はフルーツ牛乳を一口飲んで…小さく呟いた。
「そろひょ…そろそろ、帰りにゃ…たい。相棒がいりゅ…いる。あの場所にぇ…へ。」
「ククク…そうだな。」
アタシも帰りたい…我が配下や臣下達のいる…楽しくもあり、痛快で愉快な場所へ。そろそろ…夢から覚める時間だろう。
「宿に戻ったら、皆で話し合おう。それで構わないかね?」
ダリア殿は黙って頷いてから…フルーツ牛乳に口をつけた。
……
「…という訳だ。スヤスヤしてるダリア殿と眠いアタシは、そろそろ元の世界に戻るべく、行動するべきだと思ったが…2人はどう考えているのかね?」
ダリア殿の柔らかい頬に触れて、遊んでいる茜殿がアタシの方を見た。
「ん〜私はこの生活にも慣れたし、もうちょっといても…へぶっ!?」
雨天殿が、自分の枕を茜殿の顔面に押し付けて黙らせた。
「むぐ…むぐぅ!!」
「私は賛成。久留さんも賛成だよね?」
「むごむごむごぉ!!!(訳:集団圧力、断固反対…く、苦しい…橘ちゃんの良い匂いで窒息死しちゃう…昇天しちゃうよぉ!!!)」
バタつく久留さんを他所に、雨天殿が微笑む。
「全会一致ね…で、羅佳奈。そう言うからには、元の世界に帰れるアテでもあるの?」
「ククッ。」
どうしよう。特に何も考えてなかった……!!!
「そうだな…では、魔王を攻略すればいい。アタシ達の力を合わせたら、余裕であろう?」
3秒の時が流れ…雨天殿が口を開いた。
「考えてみて…ここで窒息死しかけてる人間特化の
「勝ったな… 2度風呂に入ってくる!!」
「うん。そこは100歩譲っていいの…問題は道中、誰が私達を回復するのかって話。」
「クククッ…雨天殿は心配性だな。第一、ギルドに売ってるもので、事足りるではないか。」
「魔王って言葉…一度、辞書で引いてきなさいよ。ここに辞書はないけど……?」
——何を始めようにも情報収集からだよ。部長閣下。
確かに…我が臣下の1人である馨も、そう言ってたな。まるで近くにいるみたいに鮮明に聞こえる。これが…友情か。
バタン
「ね、ねえ。今、知らない人が現れて扉から出て行ったんだけど…」
「とにかく了解した。翌日…アタシは図書館に行って来るとしよう…依頼の方は任せたぞ。いずれこの世界も統括するであろう存在である、アタシがいなくて、心配だろうが…」
「え、ええ…なら、そっちは任せたわよ。私の気のせい…だったのかな。」
……
町の図書館に来たが…まずは魔王についての情報を……よし。
「すまない。魔王を口説き落とす方法が記された本はあるか?」
「っ…そんなのねえよ!?」
怒らせてしまったようだ。アタシの言い方が悪かったか?
「魔王について、知りたいのだが…」
「あぁ?魔王についての本なら、あそこにいる子が全部、持ってったぞ。」
「何?」
管理人の指差す方向を見ると、クリーム色の髪で紫色の瞳のした少女が、明日に座って面倒そうに、積み重なった分厚い本を一冊ずつパラパラとめくっていた。
アタシは側に近づいて、声をかける。
「貴君。アタシにも見せ」
「嫌よ。」
「…貴君は何の為に」
「見て分かんないの?…魔王を始末する為の下準備をしてるんですケド?」
始末か…ふむ。
「アタシ達も魔王に会いたいが、出来るならアタシは、友好的な対話での解決を望んでいるのだ。仲良く出来た方が、双方傷つかなくて済むだろう?」
少女が本を閉じて、ありえないものを見る様な表情で、アタシを睨んだ。
「アッハハハ!!!アンタ…綺麗事で、世界を救えるって…本気でそう考えてる?」
「当然だが?」
「超絶クレイジー。脳みそお花畑すぎて、気味が悪いワケ…だ、か、ら♪」
アタシを襟を強く掴み、顔を近づけた。
「ククク…キスでもするかね?」
「したい?なら…優しく殺してっ!?」
———おい、部長に何してんだよ。
本気でキスして来そうだったから、内心、アタシがドキっとしていると、不意に手が離れ、少女が後ろの壁に激突して…
「?ぁ…な、何が…起き……て。」
重力に従いそのままうつ伏せに倒れた。
「…聖亜?」
一瞬だけ我が臣下の1人、聖亜が見えた気がしたのだが…目をこすると誰もいなかった。
「フッ…気のせいか。」
「壁がメチャクチャじゃねえか!?掃除しろ!!!」
……
かぽーん
「と言う訳で、新メンバーを紹介しよう。」
「
アタシを押し倒し、湯船に沈められた。
「な、ん、で…アンタらフールガール達と銭湯に来て、しかも手を組まなきゃいけなくなったワケ!?」
「ごぼぼぼ…(訳:共に図書館を直した仲だろう。目的もほぼ同じだし…)」
ザバッ!!!
「プハッ…皆で力を合わせれば、魔王と仲良く出来る確率も上がる。そうだろう?」
「羅佳奈ちゃん。沈んでるよ。」
「ご、ごぼぼっ…(訳:アンタ絶対、私がキルしてあげるから、覚悟してよネ!!)」
どうやら私が飛び起きた時に、沈めてしまったらしい。
「?楽しそうだが。」
「たまにちょっと怖いよね…羅佳奈ちゃん。」
「そうね…錬金術師って事は、結局…回復する手段はないままか…はぁ。」
「あれ?これ、会話のキャッチボールが成立してなくね…話進めるなら、まず助けてあげよ!?ねっ??」
アタシはいつものように立ち上がった。
「ブハッ…ゼェ……ハァ…」
「アタシはダリアの様子を見に行く。皆は梓殿と、親睦を深めているといい。」
「行ってら〜」
「ゼェ…っ、待ちなさ…」
「髑髏さん…だよね?錬金術師は、科学者みたいなものだから、回復薬とかも錬金術で何とかできたりしない?」
「何言ってるの?錬金術は科学と似てはいるけど、本質はまた別なんですケド…」
「出来ないんだ…そっか。ごめんね…」
「は?材料さえあれば、超絶余裕で作れ…まっ、抱きつくな!!気持ち悪っ…」
……
「ダリア殿。フルーツ牛乳と…ん?」
右手に既にフルーツ牛乳が握られていて、アタシは若干、困惑した。これは後で、梓殿にあげるとしよう。
「それは…誰かから貰ったのかね?」
私が隣に座ると、ダリア殿が話し始めた。
「可憐にゃ…が、似合う…少年に。さっきゅ…さっきまで、話して…いっ…いた。魔にゅおう…魔王と決着がついにゃっ…ん。たと。言っていた。」
……
…
5日後…回復薬などなどの準備を整え、梓殿の案内で川や谷、荒廃しきった魔物達が住んでいたであろう村を超えて、遂に魔王城の前に到着した。
「…戦争でもあったかのような有様だな。」
「とうとう来」
城の上から男の声がしたが、すぐに聞こえなくなった。
「今…何か声がしなかった?」
「あっはっは!!!私も聞こえたけど…何かしらでトラブってるんじゃない?」
「トラブってるって…」
「はぁ…ここ、敵地なんですケド。魔王がいるのは、城内にある玉座の間だから、早く来て欲しいワケ。ほらアンタも。」
「っ。」
あまりの出来事に、唖然としていたアタシの頭を叩かれて我に返り、4人に付いていく。
「罠は…見たところなさそうね。」
「廊下、広いなぁ…こんなに大きい建物だと迷子になりそうだよ。ダリアちゃん、そこ崩れそうだから気をつけて。」
「……」
道中でチラリと見えたどの部屋も…何のための場所だったのか分からないくらいに、ボロボロだった。
「なあ。梓殿…」
「…何。」
どうしても気になっていたアタシは、梓殿に問いを投げる。
「先程…何故、魔王を殺したのだ?」
「ん?」
「…え?」
アタシは何か、悪いことを言ってしまったのだろう。
ダリア殿が弾を空に投げた後すぐに、雨天殿が私の前に立ち、茜殿が笑顔を貼り付けたまま梓殿を見据え、密かに腰にあるダガーの柄を握ったのが分かったから。
「へぇ。よく気づ」
「ダリア殿、待っ…」
10発の発砲音で声がかき消され、梓殿の肉体が弾け飛び、黒く溶けるようにいなくなった。
「!?梓殿…何処に、」
(人の話を最後まで聞かないなんて…脳みそ脳筋すぎて心底、不愉快。ま…すぐキルしちゃうから、もうどうでもいいケド。)
アタシの心に梓殿が語りかけてきた次の瞬間、建物全体が激しく揺れ…視界が真っ暗になった。
………
…
初めから私に選択権はなかった。たとえ罠だと知っていても…
「超絶フールガールを生き返らせれる可能性が1%でもあるなら…」
瓦礫に挟まって動けずにいた
「へぇ…まだ生きてたんだ?伊達に、ヘンテコな神が、警戒してただけはあるよネ。」
何かさせる前に、『変身』して創り出した影の槍を投擲して、息の根を止めた。
「…後は。」
場所の特定が出来てない残った3人を…そう、思いながら背を向けて…その光景に、一瞬だけ思考が止まりかける。
「な、何なの?」
何の気配もなかったのに、いつの間にか辺りを何十…何百……何千もの人々で囲まれていた。
「そ。村とか魔王城がズタボロだったのは…アンタの所為だったってワケ。」
私を追い詰めた
「で…裏切り者の私をキルするの?」
「いや?」
群衆の中から1人の男が出て来て、こう言った。
「何せ、我らが部長閣下は超絶なんて単位じゃ足りないくらいのお人好しだからね☆全部、終わらせて帰って来るまで、待ってなよ。」
…
……
………
ジリリリリ!!!
「はうぁ!?」
目覚ましの音でアタシは飛び起きた。
「っ…まずい、遅刻寸前ではないか!?」
急いで身支度を整え部屋を出ようとする寸前、丸テーブルに置かれたものが目に入る。
「ククッ。」
5つの甘い香りが残るお椀
スモークチーズの残骸とビール缶
『ありがと』と書かれた紙
アタシは1つだけポツンと置かれていた棒付きキャンディーを口に入れて、家を出た。
どれも記憶にないが…
「楽しかったぞ…異邦の友たちよ。」
——自然とそう、口に出ていた。
了
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