ストーキングライフ
ユウ
ストーキングライフ
アウトサイド
プロローグ
「さっき聞いた話なんだけど、今朝隣のアパートに越してきた子いるでしょ。ほら、金髪の。あなた今朝会社に行く前に会ったでしょ。そうそう、その子。あの若い子。あの子ね、ハンザイシャらしいのよ」
共働きの両親との久しぶりの夕飯時に、お母さんが小声でそう言ったのは、まだあたしが小学生の頃。
買い物中にご近所のおばさんに聞いたその話を早くしたかったらしいお母さんは、あたしの存在を気にしつつもお父さんに話してた。
お父さんはあたしの存在に気を遣って、本当は深く聞きたいはずなのに「ふーん」なんて流すような返事をしてて。
だからあたしも気を遣って、テレビに夢中で何にも聞こえてないって振りをしてた。
でも子供っていうのはこういう「大人の話」がとっても好きで、目はしっかりテレビを見てても耳はちゃっかり両親の話を聞いてる。
聞いてるってバレたらこの会話が打ち切られる事も分かってるから、バレないように耳を
子供ってそういうもの。
親が思うほど幼くはないし、好奇心が物凄く旺盛。
お陰で、大人が思ってるよりも子供は知識が多い。
だからお母さんの言う「ハンザイシャ」っていうのが「犯罪者」だって事くらいは分かってた。
十一歳だったから普通に分かる事だったけど、お母さんは分からないと思ってる口振りだった。
親にとって子供っていうのはいつまでも「子供」らしい。
特にあたしのお母さんはそういう思いが強いらしくて、お母さんからすれば「小学生のあたし」も「幼稚園児の頃のあたし」も変わらない。
いつまでも純真無垢な子供だと、願いを込めて見てるから、お母さんの中であたしは天使のような存在だったりする。
それと分かってるから、隣のアパートに越してきた人がどんな罪を犯した「犯罪者」なのか、とっても気になるけど聞けなかった。
だから代わりにそこのところをしっかりお母さんに聞いて欲しいのに、お父さんは聞いてくれなかった。
もしかしたらお父さんは、あたしが密かに話を聞いてるって事に気付いてたのかもしれない。
でもそんな妙な隠し方が余計に好奇心をそそられた。
だからこそ、今となってはその前後にどんな話をしてたか全く覚えてないのに、その話だけはしっかりと覚えてるんだと思う。
「十五歳なんですって。その年でひとり暮らしってところがもう怪しいでしょ?」
「高校には行ってないって。学校にも行かないで何してるのかは知らないけど、聞いた話じゃ住んでた所にいられなくなって越してきたって」
「見た目からしてそういう感じよね。目付きも悪かったし。ほら、今朝もあなたの事、何だか睨んでる風だったじゃない」
愚痴るようにそう言ってたお母さんは、翌日「隣のアパートに越してきた金髪のお兄ちゃんと話しちゃダメよ」と念を押すように何度も言った。
そのお母さんの表情が切羽詰まってる風でやけに怖くて「うん」と答えるしかなかったけど、その誓いを守れたのは精々一ヶ月くらいだったと思う。
あれから五年。
高校生になったあたしは、隣のアパートに住む「犯罪者」を日々スト―キングしてる。
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