エロゲの噛ませキャラに転生した俺は主人公の代わりにヒロイン達をNTRフラグをへし折った結果、ヒロイン達から好かれるようになってしまった件

社畜豚

第1話 エロゲーの噛ませキャラに転生した




 エロゲの噛ませキャラに転生してしまった件。


 これはラノベやネット小説とかにとかでよくあるタイトルではなく、俺が今たたされている状況だ。


 病院のベットで寝たきり生活をしていたら睡魔が襲ってきて……気がついたらこうなっていた。



「マジかよ……」



 雨が降る中、屋根つきのベンチでスマホの画面を見つめる。そこに映るのはエロゲー『アマ✳︎キス』の当て馬キャラ石橋強だった。



 石橋強。


 主人公が通う学校の転校生。


 大柄な身体、並外れた身体能力、頭脳も学年主席級の天才、整った容姿、そして名家の御曹司(しかも美少女の従者つき)


 全てを兼ね備えた作中最強スペックのチャラ男である。


 なのに、全ルートで主人公の当て馬になってしまうのはこいつの性格がうんこだからだろう。 


 俗にいう残念なイケメンというやつだ。


 散々主人公の噛ませにされた挙句、実家を追放され路頭に迷っているところを刺されて死ぬ。



 NTR役や悪役にすらなれない、滑稽で可哀想なやつなのである。



「ちょっと! やめてください!」



 女の子の叫び声が聞こえ、周りを見渡す。


 少し気になったので傘を差して移動すると、どうやら一組の男女が揉めているようだった。



「つれないこと言うなよ〜このままじゃ風邪ひくだろ? 俺についてこいって……な?」


「っ!?」



 叫び声の主は『アマ✳︎キス』のヒロイン月島麗華(つきしまれいか)。


 容姿端麗、クールで真面目な振る舞いに強くて鋭い上昇志向を秘めた学年でも人気の女子だ。


 そして男の方はこのゲームのNTRキャラであるクズ島こと屑島修(くずじまおさむ)。


 主人公たちが通う高校の理事長の息子にしてコネを使って入学したNTRキャラその1。


 プライドが高く、一度欲しいと思ったものはどんな手を使ってでも手に入れるクズ野郎。


 このエロゲーは結構エグいところがあり、それはヒロインの好感度やフラグ管理を誤ると一瞬でヒロイン達が寝取られてバッドエンドになってしまう。



 あれ? つまり……今、俺の目の前でNTRイベントが起こっているのか?


 え、ちょっと待ってくれ。展開早過ぎない?



「大丈夫、大丈夫、悪いようにしないって!」


「……っ」



 でも、俺の戸惑いなんか関係なく状況は進んでいく。


 

「すぐ近くに車も待機させてるんだからさっさと来いって。ちゃんと家まで送ってやるからさ!」


「きゃっ、ちょっと!」


「……おい」



 こんなの噛ませキャラの出る幕じゃないのはわかってる。だけど、今、月島麗華を守る主人公はここにはいない。



 だから、俺が主人公の代わりになるしかない。



 麗華を無理矢理に連れて行こうとするクズ島を腕を掴んで止める。



「……は? なんだお前?」



 威圧的な視線を向けてくるクズ島。

 しかし、体格も背の高さも俺の方が圧倒的に上なので視線も見上げたものになっている。



「嫌がる女の子を無理矢理連れて行こうなんて大胆なことするじゃねーか」



 ゲームの石橋強を演じるために高圧的な言葉を使う。



「あ? どこが嫌がってるんだよ。部外者はすっこんでろ」


「部外者の俺でも嫌がってるって分かるのにお前の目は節穴か? あぁ、そうかただ単に空気が読めないバカなのか」


「お前ッ……!」



 クズ島の視線に敵意が篭った。

 

 その敵意に応えるようにぐっとクズ島の手首を掴む力をさらに強める。



「ぎっ……い!?」


「……あまり暴力は振るいたくないんだが、俺に敵意を向けるんなら……どうなっても文句は言うなよ?」


「う、う……ふん! お、覚えてろよ!」



 腕を振り払い、三下が言いそうな捨て台詞を言ってクズ島は逃げるように去って行く。


 さて、クズ島を追い返せたのはいいが。その結果ヒロインである月島麗華と二人だけになってしまった。


 ………………やらかした。

 

 い、いや……ここで動かなければ月島麗華はクズ島に無理矢理車に乗せられてされて襲われていたんだ。この選択は間違ってはいないだろう。



「……助けてくれて、ありがと」



 振り返り、麗華の姿を見る。


 飾り気のない黒色の髪をまっすぐに下ろし、意志の強さを感じさせる瞳。気品さを備えた整った顔立ち。立ち姿や身のこなしが静かで綺麗で……自然と視線を惹きつけるような美しさ。


 流石エロゲのヒロインだ。めちゃくちゃ可愛い。


 しかし、帰る途中、雨に降られて雨宿りしていたのだろう。髪も濡れており、制服も透けてしまっている。



「……ほら、色々と透けてるからこれでも羽織っとけ」


「え、あ、ありがと……」



 俺のブレザーを着る麗華。うん。わかっていたことだけど、ぶかぶかだ。


 あとは濡れた髪だな……何かいいものはないかな。

 ゴソゴソと鞄の中を見るとちょうど良い大きさのタオルがあった。



「風邪ひかないようにこれで髪とか拭け」


「う、うん……」



 麗華は戸惑いながらもタオルを受け取り、髪を拭き始める。



「……どうしてそんなに親切にしてくれるの? 私、石橋のこと名前くらいしか知らないのに」


「特に意味なんかねーよ。ただ、このまま放置して帰るのも後味が悪いだけだ」


「ふーん」



(……悪い人じゃ、ないのかな?)



 ん? なんか、麗華のキャラとかけ離れたセリフが聞こえたような?



「何か言ったか?」


「別になにも言ってないけど」


「そ、そうか……」



 もしかして、ゲームや小説のモノローグみたいに麗華の心の声が聞こえているのか?



(む、むしろ優しいし……ちょ、ちょっと好きになりそう)



 大丈夫か? 月島麗華、ちょろすぎないか?


 いや、待てよ……確か月島麗華ってこのゲームのチュートリアルキャラ的な扱いだったはず。


 つまり、月島麗華は他のヒロインと比べてちょろい。



「…………」



 髪を拭きながら空を見上げる麗華、雲はどんよりしており、雨はしばらく止む気配はない。



「ほら、傘やるからさっさと帰れよ」



 麗華に傘を渡してベンチに座り込む。


 麗華も制服は濡れたままなため、さっさと帰ってシャワーでも浴びたいはずだ。それに雨もこれから段々と強くなる予報となっている。



 だから、彼女がここに居続ける理由はない。



「ごめん、隣座るからもう少し端に寄って」


「あ、はい」



 スッと俺の横に座る月島麗華。



 ………………え、ちょっと。なんで座ってんの。なんのために傘を渡したと思ってんの。



「あの、なんで帰らないんだ? 俺、傘渡したよな?」


「……予報ではこのあと落雷の可能性があるって知ってる?」



 質問を質問で返されてしまった。



「雷はね。少しでも高く・細く・突き出た場所に落ちやすい性質なの」



 え、なんか語り出したんだけど、早く帰ってくれよ。



「つまり、今傘を差した状態で帰ると雷が直撃する可能性が今より高くなって危険ということ」


「……なるほど、つまり雷が鳴る中一人で帰るのが怖いからここから動けないってことか」


「違うからぁ!!」



 そうか、違うのか。だったら、さっさと傘をさして帰ってくれないかな。



(もう! なんでそんなこと言うの!? ノンデリなの!? そこは何も言わず、そばにいるのが正解なんだよ!! 察してよ! 私の乙女心を察してよ!!)



 俺のさっさと帰って欲しい気持ちを察してくれ。


 落雷に対する危険性を早口で説き始めた麗華に相槌を打ちながら一向に晴れる様子のない雲を見上げた。

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