第9話 1周目の記憶の断片を持つ者が現れ始める。そしてあの美少女が転校してきた。

「はぁ、はぁ……。またこの夢……」


 朝、瀬川 樹里は自室で目を覚ますと冷や汗を流していた。最近彼女はよく同じ夢を見てうなされていた。


 夢の中で樹里は大学生になっている。そして知らない男と付き合っていて、その男からはDVを受けている。あげく捨てられ、人生が破滅していく……という、なんともリアリティのある内容の悪夢だった。


(ほんと意味わかんない。大学なんて行ったことないのに建物の中とかやたらリアルだし。そもそもあの気持ち悪い男、誰なの……)


 夢の中で見た男の姿を思い出し寒気がする。薄手のTシャツにショートパンツという格好で寝ていた樹里は、上着を羽織るために起き上がった。


「学校行ったら、時野くんに相談してみようかな……」


 夢に出てくる男が実は今同じクラスにいる、拓朗が縁を切ったうちひとりの剛園寺 太賀で、1周目の記憶だということをもちろん知らない樹里はそんなことを考えて部屋を出た。


 ◇


「っていう夢でさ……やたらリアリティがあって。あはは、アタシおかしくなっちゃったんかな」


 昼休み、拓朗は食堂でカツ丼を食べながら樹里の話を聞いていた。彼女の前には唐揚げ定食が置かれている。


(やたらリアリティのある悪夢、それもここ最近になってよく見るようになったか……)


 ふと、拓朗の頭に何かが浮かんだ。それがもしただの夢ではなく、だとしたら……。


(まさかな……けど、警戒しておくに越したことはないだろう。なぜか奏が大学で始めるはずのバイトを現在の段階で始めた例もある。そういえば……あの女性ひとがこういうことに詳しいって言ってたような……)


 色々と頭の中で考え、樹里の身に危険が迫る前に行動しようと決めた拓朗。いつも通り先回りして、絶対に後悔しないように行動しようという考えだ。


 けど、変に説明をして樹里を不安にさせてはいけない。


「きっとなにか理由があるんだと思う。ちょっと知り合いに夢とかに詳しい人がいるから調べてみるよ。もし、また不安なことがあったら話聞くから」


「ありがと、少し気が楽になった。まさかこんな親身に考えてもらえると思わなかった。時野くんに相談してよかったよ」


 樹里はそう言って、少し安堵した笑みを見せた。


 予想外の出来事が起こったのは、その日の放課後のことだった――


「今日からこの学校に通うことになった夢咲 奏ですっ、みなさんよろしくお願いしますね」


 アルバイトを始める時期が早まっただけではなく、なぜか奏が拓朗の通う高校に転校してきたのだ。

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