ヒーローは完璧じゃないくらいが丁度いい


 「助けてー」って叫ぶと、どこからともなく飛んでくるヒーロー。おそらく、同じクラスだったあの子は「かっけー!」って騒ぎながら当時観ていたのだろうな。だが、幼稚園児のころの私は、「助けを呼んですぐにヒーローが来たら、警察なんかいらないじゃん」そう思いながら、観ていた戦隊もの。


 幼少期から捻くれてて、さらに幼稚園児のころなんて、怖いものが何もなくて。戦隊ものに憧れている男の子が「俺はレッドみたいなヒーローになるんだ!」と言えば、「助け呼ばれたら飛んでいけるの? かけ足で? 空飛べないじゃん。どうやって、すぐに駆け付けるの? ねぇ?」って質問攻めにして、よく相手を泣かしていましたね……。


 可愛げのない幼稚園児で、当時の先生たちも手を焼いていたことでしょう…。本当、みんなごめんなさい……。


 それでも、自分は女の子側の「月に代わっておしおき」するキャラたちには憧れてて。全身そのグッズで固めていたような記憶があるので、幼少期からすでにヲタク街道まっしぐらだったようです。


主人公じゃないキャラになりたかったから、ごっこ遊びのときも選んだキャラが被ることは少なかったかな。


 36歳になっても尚、いまだに母親から言われる。「あんたは小さい頃から頑固で、【これがいい】って言ったら絶対それじゃないと気が済まなかった。特に、あの「月に代わっておしおき」するキャラのグッズ! 人気で揃えるの大変だったんだから! 服からズボンから、靴下から靴まで買いそろえて! そう! パジャマも! 冬用と夏用と! あのキャラ見るたび、思い出す!」


 母よ。すまぬ。それしか言えない。


 で、月日は流れ──大人になってからの話。


 ヒーロー気質の方っているんだな、と。


 画面の中だけの存在だと思っていたけど、ヒーロー気質な方は現実世界にもいることに気づいた。


 「届かなーい!」って叫んだら、「どれ?」って駆けつけてくれ、またあるときは、落下物から「危ない!」って、かばってくれたり。


 自分がヒロインなのかと錯覚させられるくらい、まさにヒーロー。立ち振る舞いもスマートなんだよね、これがまた。


 偶然会って、距離もあったから会釈だけでいいやと思っていた私に対し、手を挙げながら歩いてくるヒーロー。「え?」って驚いていると、「久しぶり。元気だった?」と気さくに話しかけてくるヒーロー。


 他の方だったら会釈だけで終わってる。距離もあるし、近づいて声をかけようとは考えないだろう。でも、ヒーローはわざわざ歩いてきて、「元気かい?」と気にかけ、「お互い頑張ろう」と、また手を挙げて去っていく。


 同じ会社で仕事をしていた期間なんて1年にも満たしていないのに、私と話した内容も何年も経った今でもしっかり覚えているヒーロー。


 私が彼をヒーローと呼ぶ最大の理由は、本当に困ったときにいつも助けてくれたから。それも私が「助けて」と言う前に、彼は私のピンチを察知して、いつも私の背中を支えてくれた。


 そこに恋愛感情はない。あるとすれば、兄妹のような関係性だろうか……。


 「助けて」と叫んだってヒーローは来ない。そう思っていたけれど、ヒーロー気質の方は現実世界に確かに存在する。そして、その方は見返りを求めることなく助けてくれる。


 そんなヒーローは決して完璧ではない。本人もそれを自覚している。ヒーローに、こんな質問をしたことがある。


「怒ることあるんですか?」


 ヒーローは、いつも穏やかで柔らかい雰囲気をまとっている。だから、怒った姿が想像できない。たまに、上司から怒られて、すねていることはあったが。


「そりゃ、俺も人間だからね。でも、人のミスは怒らないかな。俺もよくミスするし。人に怒ったら、自分がミスしたとき、もっと怒られるじゃん。ミスしたって、次気をつければいいんだよ」


 この発言が私には衝撃だった。まさにその通りだな、と。こういう人を器が大きいというのか。さすが、ヒーロー。刺さる言葉をありがとう。でも、完璧じゃないのが、ヒーローのいいところ。


「それで、また同じミスして、この間怒られちゃったんだけどさ」


 少年のような笑顔で笑っていたヒーロー。


 私にとって、彼は永遠にヒーローだ。

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