朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録壱】

その子四十路

第1話 朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】

 黄昏の時刻、知人とすれ違った。

 よく知っているひとのはずなのに、あのひとが誰なのか、思い出せない。

 どんな顔をしていたっけ……


 ──本当に、わたしはあのひとを知っているのだろうか?

 ──あのひとはいったい、誰なのだろうか?


 おぼろげな面影は、墨で塗りつぶされたように真っ黒だった。



 しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。

 オカルトとは言い切れないけど、なんだか怖い、背筋がぞくっとする……そんな出来事ばかりだ。


 わたしはホラー映画やミステリ小説を偏愛しているが、実体験したいわけではない。

 こわがりなので、気をまぎらわせるために、奇妙な体験談を酒の席で披露することがある。


 すると、不思議なもので、

「怖い話を蒐集しているのでしょう?」と、友人・知人・はてはよく知らないひとまで、なにかしらの恐怖体験を聞かせてくれる。


 幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話……

 日常に潜む、胸をざわめかせる怪異──


 本作は、作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集である。

 登場する地名・人物名は、さまざまな点を考慮してすべて仮名にしてある。


 取材に協力してくれた、気のいい酔っ払いたちに心から感謝している。

 連絡がつかなくなったひともいるが……無事であることを祈っている。


 


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