2023年10月
10月7日 嫌われ者 濡れる 撫でる
1 俺は家族からも疎まれる嫌われ者だ。適性がないとわかったその瞬間から、幼い頃に頭を撫でてくれた優しい手は俺を打つ恐怖の象徴となった。濡れた頬を拭うこともできず、施錠された部屋に転がる。「仕事だ」鍵が開くのは裏の家業の時だけ。そして今夜も、俺はその手を真っ赤に染めるのだ。
2 チビでデブの俺は嫌われ者だった。せめてデブだけはどうにかしようと、Tシャツがびしょびしょに濡れるまで汗を流した結果、細マッチョになれた。「期間限定の栗味だぞ」「だがしかし食べない!」「へえ?」デブ時代を知っているというのに、彼は俺の頭を撫でながらお菓子をぱくり。なんたる拷問だ!
10月13日 ロマンチック 指 限界
1 我慢の限界だった。彼は俺のもので、俺は彼のもの。2人でひとつだ。赤でぬめる指をひとつひとつ数えながら口に含む。これが、彼の味。これからは俺が着替えも食事も、排泄だって、全部してあげる。24時間、365日ずっと一緒だ。この世界には俺たち2人だけ。なぁ、ロマンチックだろ?
2 指先が触れ合うだけで翼が生えたように限界を軽々と越えてしまう。ロマンチックのカケラもない始まりなのに、君はいつも凪いだ海のように僕を受け入れてくれる。愛しさが溢れて止まらない。暗い夜を照らす灯台のような優しさに包まれ、今夜も君の腕に溺れる。
10月17日 以上 まつげ 壊れて
1 苦痛に歪む顔が好きだ。まつげに雫が朝露のように浮かぶその様は美しい。壊したい衝動に駆られるが、今のオモチャは最高だ。長く、永く、コレで遊びたい。光を失わない瞳が俺の劣情を煽る。今以上に昂らせてどうするつもりなんだろう。ああ、そうか。お前も、俺と遊びたいんだな?
2 壊れてしまわないように、そっと優しく抱き締めた。長いまつげを瞬かせて戸惑う彼は僕の可愛い恋人だ。「どうした?」「何でもなーい」ただ、くっつきたかっただけだ。これまで以上にベタベタしたい。キスをしたい。付き合うって、こんなに幸せなんだ。ヘラっと笑うと、不意打ちで唇に噛みつかれた。
10月20日 断ち切る 下着 恥じらい
1 破廉恥な下着をゆっくりと見せつけるように下すと、下卑たどよめきが響いた。恥じらいはとっくの昔にかなぐり捨てた。この世界に足を踏み入れたが最後、悪縁を断ち切ることはできない。酔いそうなほどの極彩色のライトの下で、俺はその体を熱のこもった視線の前に曝け出した。今宵、俺に傅くのは誰だ。
2 恥じらいは美徳だ。全身を赤らめ、隠しきれない欲を手で覆う可愛い人。俺の唯一で、最後の男。そのしなやかに伸びた手を撫で、ゆっくりと焦らすようにベッドに縫い付け逃げ道を断ち切る。息を詰める音が妙に大きく感じられた。これまで焦らされた俺は、彼の素朴な下着をするりと脱がせた。
10月21日 ちょっぴり 扇状 どうしてなの
1 「どうしてなの」彼の噂を聞いて湧いたちょっぴりの好奇心。それに従った結果がこれだ。話でしか聞いたことのない拘束が全身を戒められた俺を扇状的だと褒める彼。「君をが好きだからだよ」その口元が三日月のように吊り上がった。爪先から恐怖が迫り上がってくる。彼の手の中の銀が鈍く光った。
2 黒で統一された軍服。それを着た上官は格好いいはずなのに可愛く見える。どうしてなのだろうか。その答えはもちろん俺の胸の中にある。鬼軍曹と呼ばれる彼は夜な夜な俺の腕の中で扇状的に乱れる。彼の痴態を知るのは後にも先にも俺だけだ。終業の鐘が鳴る。2人きりの部屋で、俺は彼を壁に押し付けた。
10月31日 八重歯 教えて 走った
1 満員電車のせいで待ち合わせに遅れた俺は必死に走った。先に着いていた彼は全身真っ黒で、俺を認めると嬉しそうに笑った。その口の中で白い歯が光る。「凄ぇ!この八重歯、どうやって作ったか教えて!」「秘密」すらりと伸びた人差し指を真っ赤な唇に当て得意気に口角を上げる彼に、俺の心臓が跳ねた。
2 走ってきた彼は可愛らしい狼の仮装をしていた。俺の八重歯を見てどう作ったのか教えてほしいと強請る彼。残念、これは天然なんだ。普段は隠しているが、新月でハロウィンという魔力が高まる日は自然と出てきてしまう。君の首に牙を突き立て、血を啜り、閉じ込めたいと言ったら、君はどうするのかな?
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