2023年6月

6月6日 走った ドレス ごまかす

 義兄や両親らに土下座され、体調を崩した新婦である双子の姉の代わりにウエディングドレスを着て高砂に座る。新婦の友人席に座る幼馴染から刺さる視線に笑って誤魔化した。披露宴後、誰にも会わないように控え室から走って出て行こうとしていたのになんでこの幼馴染は般若の形相で控え室前にいるんだ!


6月7日 背負う 手を振る神様なの

「この人は俺の神様なの」そう言って恋人は黒服の男の手を取った。彼が背負うものが大きかったからなのか。俺の愛情が届かなかったからなのか。あるいは両方か。鎖に繋がれて踠く俺に恋人は無邪気に笑って手を振った。黒服の男はくつりと喉で笑うと、恋人を連れて暗いこの部屋から出て行ってしまった。


6月8日 神様 死ぬまで 片付け

 ああ、神様。僕はいつまでこれを続ければいいんでしょうか?死ぬまで終わりそうにありません。「辛い」「手を動かせ!夏休みの宿題を最終日まで全部放置するなんて信じられねぇ!」悪態を吐きつつ俺の宿題の手伝いをしてくれる頼りになる幼馴染に尻を引っ叩かれながら、俺は泣きながら宿題を片付けた。


6月13日 立ち尽くす 弔い ペン先

 弔いの日は雷雨だった。信じられないまま会場に着き。促されるままに記帳するペン先は震えていた。おばさんに連れられた先に真っ白な顔の彼がいた。俺は立ち尽くした。二人の関係を隠していた俺たち。「愛している」の一言も言えないまま、冷たくなった最愛にさよならを告げた。


6月16日 裸 犬 戸惑い

 犬のように首輪を付け、裸で主人の帰りを待つ。親友が豹変したのは三ヶ月前。最初の一週間で戸惑いも反抗も、人としての尊厳も捨てた。そうしなければ生きていけないからだ。ガチャリと玄関が開く音が聞こえた。俺は四つん這いで駆け寄ってその足に擦り寄った。「ただいま。いい子にしてた?」「わん」


6月18日 流れる あえて 終電

 終電の時間は頭に入っていたが、あえて知らないふりをする。彼の隣で、穏やかに流れる川のせせらぎに耳を澄ませ、眼前に広がる黄緑の光の渦を眺める。少しでもこの絶景を彼と一緒に眺めていたい。俺は意を決して彼の手に自分のそれを重ねた。


6月21日 離さない 頬 以上

 ずっと好きで、でも彼は雲の上の人で、身の丈に合わない恋だった。でも、彼は何もかも捨て去って僕を求めてくれた。今は、これ以上にないほど幸せだ。「もう離さない」「離しても僕が捕まえにいく」額をコツンと合わせ、頬を擦り寄せ、僕らはゆっくりと触れるだけのキスをした。


6月24日 浴槽 音楽 戸惑い

 帰宅すると浴槽に浸かった恋人が歌っていた。彼は音痴で人前では歌わない。歌うのをやめてしまうのがわかっていたから、音を立てずに廊下で聞き耳を立てる。彼は俺への愛を歌っていた。戸惑いと嬉しさと、調子っぱずれの音楽に笑いが込み上げてくる。気づいた彼にお湯をかけられるまで、あと3秒。


6月26日 走った 蔑む 枕

「お前と付き合うなんて本当気色悪かった」蔑む笑いは彼とその取り巻きのもの。俺は走って逃げ出し、帰宅すると枕を抱え込み嗚咽を漏らした。その時インターフォンが鳴った。仕方なく応答すると、そこには幼馴染がいた。「だから俺にしろって言ったんだ」そっと抱き込まれ、その優しさに涙を流した。


6月28日 直せない 充電 雨

 僕が彼の好意に胡座をかいていたせいで、彼の愛情の充電は尽きてしまった。どんなに謝っても許してくれなくて、挙句ストーカーだと警察に通報された。僕らの関係はどうやっても直せないんだと思い知らされた。雨に打たれながら、僕は捨てられたんだとようやく理解した。

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