2023年5月

5月2日 どうか まだ 無垢

 まだ恋も知らない、寝ている君の無垢な唇に指を添わせることをどうか許してほしい。こうでもしなければ君は僕が視界に入ることすら許してくれないからだ。こんなに好きなのに、愛しているのに、なぜ君は僕を拒絶する?ああ、早く君が僕に泣いて縋る姿を見たい。それが叶うまで、あと少しだ。


5月10日 指 日付 マニキュア

 日付が変わる頃、視界が滲むのも構わず左手の薬指に塗っていた赤いマニキュアを落とす。あともう少しだからと言われ続け、指輪の代わりにと塗っていた赤。もう必要ない。あいつのことなんて、マニキュアを落としたコットンと一緒にゴミ箱に捨ててやる。こっちから願い下げだ。俺は二度と誰も信じない。


5月13日 机 口説く 想像力

 早朝、誰もいない教室。彼の机の上に手を置き、想像力を最大限駆使する。頭の中では、今日も彼を口説き落とせなかった。この想いを自覚してから、何度これを繰り返しただろうか。告げられない想いを抱えたまま、とうとう今日は卒業式を迎える。進路は別々。彼との縁は、ここで切れることになりそうだ。


5月15日 壁 閉じ込める 変態

 特別棟の奥にある階段の、屋上に続く扉の横。壁の隅に追いやられた俺は、その腕の中に閉じ込められた。「変態」「どうとでも言え」開き直った彼は不敵に笑い唇を落としてくる。彼の首に腕を回して先を催促し、そんな状況に興奮する俺も、彼と同じ変態なんだろう。


5月17日 センチメンタル 慰め ご主人様

 私の可愛いご主人様。幼少期は嬉しいことがあれは共に喜び、悲しいことがあれば夜更けまでお慰めした。今は思春期でセンチメンタルになっているのか、なぜか私を遠ざけている。何が原因なのかさっぱり思い至らず、聞けばうるさい出ていけと言われる始末。今は遠目から見守る日々を送っている。


5月19日 蔑む 穴 王国 ※140文字×2

 私を忌子と蔑み、深い深い穴に堕とした彼らの王国は滅んだ。この手で親を、双子の兄を、多くの官吏を手にかけ復讐を果たしたというのに、心は空っぽのまま満たされることはなかった。惨劇の中に立ち尽くす私を掬い上げたのは真っ暗な闇から伸びる手だった。


 「この十五年、楽しませてもらった。これからは俺がお前を愛でよう。その潰れた左目も、背中の醜い傷跡も、何もかもすべて」愛とはなんなのか。誰からも与えられず、誰にも与えなかったもの。それが知りたくて、私は罠だと知りつつその手を取った。


5月20日 薬 キーホルダー 窓

 薬品の匂いのする部屋の窓が換気のために開けられていた。ベッドの横にある丸椅子に座って彼の手を握り、一週間の出来事を話した。「なあ、いつまで寝てるつもりだ? 早く起きろよ」答えは返ってこない。ベッドの柵に掛けてある、遊園地でお揃いで買ったキーホルダーが風に揺れていた。


5月23日 心臓 ふわりと 焦らす

 冷えた手をそっと握られ、ふわりと笑いかけられた。イルミネーションが煌めく人混みでは誰も俺たちが手を繋いでいることに気付かない。心臓がドキドキする。手の甲を擽る指はまるで焦らしているようで、どうやって仕返しをしようか沸騰する頭で考えた。それでもきっと、彼には敵わないんだろうけど。


5月25日 翻す 小説 断ち切る

「お前とは今日で終わりだ」無造作に投げられたのは両手に抱えきれないほどの札束で、それはベッドの上に散らばった。彼は一度も振り返ることなく、スーツの裾を翻して退室した。『現実は小説みよりも奇なり』とはいうが、俺の場合はそうはいかなかったようだ。


5月26日 ピースサイン 靴下 締めつける

 帰宅すると玄関の床に脱ぎ散らかしたままの靴下が目に入った。「おい、靴下」「あーごめんごめん」奥のリビングから出てきた彼は、その場からそれを洗濯機に投げて俺にピースサインを送った。俺は彼の肩口を小突いてリビングに向かったが照れ隠しだ。彼の笑顔を見るたびに、胸が締め付けられるからだ。


5月27日 ペット 灯り ニヤリ

 俺のペットは可愛い。最初は酷く抵抗されたが、今は従順で命令すれば何でもやる。今日も散々焦らした上で卑猥な言葉でおねだりするよう命じ、彼は悔しそうに歯噛みしながらそれに従った。だが俺は知らなかった。退室しようと俺が背を向けた時、薄暗い灯りの下で彼がニヤリと笑っていたことを。


5月28日 猫 ドレス エアコン

 エアコンがきいた部屋に、猫耳カチューシャとピンクのドレスを着た俺とそれをベッドに座って眺める変態。「似合ってるね」「ふざけんな!お前が着ればいいだろ」「まあまあ」そう宥められベッドに押し倒される。「とりあえずこのまま愛させて」見上げた先には涎を垂らした獣が目を爛々と輝かせていた。


5月29日 窓 走った 撫でる 

 幼い頃に変質者から助けてくれたあの人。窓から見えたその横顔に一瞬呆けてしまった。あの時のお礼を言いたくて、今はこんなに大きくなったんだと見せたくて、あなたが好きだと伝えたくて。その後ろ姿を探して、俺は周りも気にせず走り出した。俺は12年振りのその姿に勇気を振り絞って声をかけた。

 ※撫でるを入れ忘れています。


5月30日 ベッド 消える 見つめる

 俺が寝ているベッドの隣、一人分のスペースが空いたところにあった温もりは消えていた。俺が寝るまでは隣にいてくれるが、彼はそれが終わるとすぐにこの部屋を後にする。玄関ドアを恨めしく見つめても彼は戻ってこない。だって、俺と彼はトオモダチだ。彼は俺で欲を発散した後、本命の家に行くのだ。


5月31日 あとちょっと ハンバーグ 地面

 あいつが大好きなハンバーグが焼き上がるまであとちょっと。地面に這いつくばってでも食べたいと豪語しているあいつがビールとともに帰ってくるまであと5分。帰宅と同時にできあがるのが理想だがそう考えているうちに帰ってきてしまった。「ただいま」「おかえり」後ろからのハグに俺はキスで応えた。


 

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