キャンプのすゝめ
ゆったり虚無
第1話 小さな非日常
これは壮大な冒険をする話でもなければ、敵を倒すわけでもない。
しかし、小さな非日常を味わう。
ごく普通の20代である僕がただキャンプをするだけの話である。
朝6時、スマホのアラームを止める。
社会人になって1年が過ぎようとしていた。
この時間に起きるのも慣れたものだ。
僕は起き上がり朝食を準備するためキッチンへと向かう。
ボウルにシリアルと牛乳を入れ、沸かしておいたお湯をコップに注ぎ、インスタントだがコーヒーを作る。
完璧な朝食だ!
テレビをつけニュースを見ながら朝食を胃に流し込んでいく。
タメになるのかならないのか、よく分からないニュースを見終わり食器を洗う。
歯を磨き、スーツに着替え家を出る。
いつもの1日が始まろうとしていた。
夕方5時、僕は仕事を終えて帰路についていた。
なんだか疲れた。
決してブラックというわけではないのだが、生活にハリを感じない。
自販機で微糖の缶コーヒーを買い、チビチビと飲みながらあてもなく街を歩いていた。
「普段はいかない道でも歩くか。」
そう呟き、僕は見知らぬ道へと足を運ぶ。
少し歩いていくと、大きい建物が見えてきた。
こんなところに大型商業施設なんかあったのか。
近くにあったゴミ箱に空き缶を投げ入れ、店の中へと入っていった。
店内は入学シーズンに新生活シーズンということもあって、大勢の人で賑わっていた。
小さい子供が母親と手をつないでランドセルを物色していたり、ネクタイを選んでいる3人組の男子がいたりと、各々が新生活に向けて準備をしていた。
僕もなにかしようかな。
なんてぼんやりと思いながら、考えもなく2階へと上がっていった。
エスカレータを上ったすぐ目の前、そこにはスポーツ用品店が待ち構えていた。
その中の横に目をやると、小さくキャンプ用品のコーナーが設置してあった。
「キャンプか。小さいころ、親に連れて行ってもらったことがあるなぁ。」
小学生くらいのころに、お父さんの気まぐれで数回、キャンプに行ったことがある。
詳しくは覚えていないが、楽しかったような気がする。
近くにキャンプ場あったかな?
なんてことを考えながら、中に入っていく。
そこにはテントや椅子、BBQセットに調理器具など、所狭しと置いてあった。
テントなんか久しぶりに見たな。
そう思いながら、展示してあるファミリー用のテントを眺め、値段に目を移した。
「Oh…」
思わず声に出た。
テント、高いんだな。
そう思い一人用のテントを見た。
こっちは展示はされていなかったが、見るからに小さい。
こっちは安いな。
さっきのファミリー用の4分の1の値段だった。
これくらいなら買えるな。
この間のボーナスもあるし。
その場でスマホを取り出し、「ソロキャン 必要なもの」と打ち込んだ。
色んなサイトが表示される。
さて、どのサイトを参考にしようか。
スマホとにらめっこしながら、たっぷり2時間以上かけて購入した。
おかげで帰りの電車では大荷物で大変な思いをしたのだった。
僕の会社はありがたいことに土日が休みのことが多い。
つまり2連休が取りやすい環境だ。
今日は金曜日。
さっそく、行ってみようかな。
僕の好きな作品のトリコでも「思い立った日が吉日」って言ってたし。
YouTubeを開き、キャンプ初心者向けの動画を見てみる。
うん、分かるような分からないような感じだ。
結局は実際に経験しないといけないということか。
必要だと思うものをリュックサックに詰め込み明日の支度をしていく。
さっきネットで知ったのだが、最初はデイキャンプという日帰りのキャンプがおすすめらしい。
確かにいきなり宿泊というのはいささかハードルが高いように思われた。
なんだか久しぶりに胸が高鳴っていた。
この非日常感、小学校の遠足を思い出す。
その夜は高揚感のせいでなかなか寝付けなかった。
朝6時、アラームが鳴る前に目が覚めた。
昨日調べた感じだと、街中にもキャンプ場はあったりするらしい。
今日僕が行くのはそんな場所だ。
僕は車の免許を持っていないし、住んでいる場所は大阪。
すなわち、移動手段は電車だ。
こんなことなら免許を取っていてもよかったかも。
そんなことを思いながらコーヒーを飲む。
しばらくゆっくりとしていたら時刻はいつの間にか9時だ。
そろそろ行くか。
ベージュのパーカーにグレーのチノパン、そして白のキャップを被りリュックを背負って家を出た。
電車の中では立ちっぱなしだった。
リュックサックは重たいのですぐに足元に置いた。
もっと軽ければいいのに。
なんてことを思いながら電車の外の風景を眺める。
ボーっとしていたら電車のアナウンスが耳に入ってきた。
到着だ。
重たい荷物を背負いながら、僕はホームから飛び出した。
駅にはコンビニにドトール、近くにはスーパーもあった。
とても近くにキャンプ場があるようには思えない。
少しの疑念を抱きながら、地図アプリの指示に従い歩いていく。
10分ほど歩くと、大きな公園が目に飛びこんできた。
ここだ。
確かにある。
キャンプサイトだ。
すぐ近くには道路があり、車が走っている。
キャンプサイトにはもうすでに何人か人がいてテントを設営していた。
家族連れに2人組の男子。
少し向こうにはトイレと炊事場のようなもの見える。
素早く管理棟に行き料金を支払い、説明を受けキャンプサイトに戻った。
さっそくテントの設営をしてみるか。
僕は木々の匂いを目一杯吸い込み、作業へと取り掛かった。
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