第32話


「セシリアにカタリナだな。俺はユウでいい。それじゃあ動くぞ」

「はい!」

「どこに向かう?」

「60階層のモノリスだが?」

「分かった。馬車か?」

 カタリナは馬がなのか?

「そんなものあるわけないだろ?歩きだ!」

「な、聖女様に歩かせる気か?お前は馬車くらい用意してこい!」

「はぁ、話にならないな!2人でどうにかしてくれ!」

 と俺は下に行こうとするが、

「待ってください!歩きますのでよろしくお願いします!」

「聖女様!こんな男に頭を下げるなんて」

「いえ、これも星の思し召しです。私達は助けられたのですから」

 と2人で支え合っているが、なんか茶番を見せられてる気分だな。


「悪いけどそんな調子なら連れていけないぞ?」

「な!聖女様が歩くとおっしゃってるのにか!」

「そうだ、それに聖女?俺には関係ない」

「な!お前は!礼儀すら知らないのか!」

 と憤る女戦士のカタリナ。

「うるさい!お前はそんなに大事ならなんでこんなところで奴隷になってたんだ!」

「そ、それは」

 カタリナは黙ったままだった。


「はぁはぁはぁ、やっと追いついたぞ!」

魔物達が追いついてきたようだ。

「はぁ、ほらな?こいつらの方がよっぽど頭が回るようだな」

「な!?」

「うちの商品を返してもらおうか!」

「悪いけど返すギリはないかな?」

「てめぇら!やっちまえ!」

 『神速』で斬り捨てる。

「ったく。しつこいんだよ」

 ドロップを拾うと、

「け、剣を貸せ!私が聖女様を守る!」

 とカタリナが手を出すがその手を払って、

「いけません!ユウ様に失礼ですよ!すみません、カタリナは一途な子でして、許してもらえないでしょうか?」

 と頭を下げるセシリア。


「セシリアの方が頭が柔らかいみたいだな」

「く、」

 カタリナは膝をつき悔しそうにする。

「とりあえず動くぞ?足は平気か?『構築』…これをはけばまだマシだろう」

 『構築』でブーツを出してやる。

「はい、ありがとうございます」

「くそ!」

 カタリナもブーツを履き歩いて階層を上がる階段へ向かう。

 インベントリから飲み物を出して渡すと飲み方を教えて、

「少し待っててくれ、すぐ戻る」

 このままだと日が暮れるな。


 街へ向かい、魔道具屋を探すとあったので中に入る。

「すまないがこれはあるか?」

 魔道具屋のなかには老婆が1人。

「魔人化のイヤーカフだね、あるよ?」

「これで二つと交換できるか?」

「もう一声だね」

「ならこれでどうだ?」

「ひゃひゃひゃ!こりゃええわい!待っていきな!」

 ミノタウルスの肉塊二つに酒も二つか、高い買い物だな。


 2人は怯えていたが俺が戻ると安心したようだ。

「悪いな、これを手に入れてきた。つけてもらえるか?」

「はい」

「これはお前がつけてるやつではないか!我らに魔物になれと言っているのか!」

 セシリアはもう着けているのにカタリナはつけない。

「着けないのか?それならお前だけ勝手にしろ」

「な!お前には人情がないのか?!」

「ない!お前のようなわがままなやつにかける人情など持ち合わせてないからな!」

 わがままも過ぎれば腹立たしくなるな!


「私がわがままだと!なぜそんな魔物に化けてまで穏便に通り抜けようとするんだ!全て倒せば済むではないか!その力はあるだろう!?」

 カタリナは俺の力を当てにしている。

「ここの奴らにもルールがある!それを俺は暴力で解決しようとは思わないだけだ!」

「魔物だぞ!人類の敵だ!」

「それでもだ!ここは魔王国で俺らがよそ者だからな!」

 鋼鉄の剣をインベントリから出して大地に刺す。

「ほらこれをやるから1人でなんとかしろよ」

「な!ここは魔物が多いのだぞ!1人でどうにかなるわけないだろ!」

「じゃーお前はどうしたいんだ!俺は手を貸さないぞ!」

「すみません、ユウ様、少し2人で話をさせてもらえますか?」

「あぁ、いいぞ」

 と言うとセシリアがカタリナの頬を叩く。

「え?!」

「貴女はどうして自分を助けてくれようとするユウ様の気持ちがわからないのですか?勇者は敗れ、ここはダンジョンと化しました!それでも魔物の中に1人で入ってきて私達を助けてくださったユウ様の優しい心がわからないのですか?」

「せ、聖女様」

「私は貴女も助けたい!だから聞き分けのないことを言ってユウ様を困らせないでください!」

 セシリアとカタリナは泣いている。


「は、はい…すまなかった」

「わかればいい、このまま街に泊まるからつけておいてくれ」

「…分かった」

 とカタリナはイヤーカフをつけて3人で街の中に入る


 宿に向かい二部屋取って2人を部屋に案内してから俺の部屋に入りベッドに横になる。

「はぁ、疲れたな」

 あっちの世界の人間は魔物が街を作り暮らしているのになんの考えも持たないのか?

 魔物全てが害悪と決めていたカタリナはどうなんだ?


“コンコン”

「どうした?」

「入ってもよろしいですか?」

「どうぞ」

 セシリアとカタリナが入ってきた。

 2人はベッドの上に座り、俺は椅子に座る。


「外の世界のことを聞きたくてきました」

「そうか、まず、ダンジョンができるまでは人間しかいない世界だったな」

「え!エルフやドワーフ、魔物もですか?」

「あぁ、人間と動物だけだな」

「そ、そんな世界があるなんて…」

 セシリアには考えつかないようだ。

「そんな世界にモノリスが立ち始め、ダンジョンが出来た。そして」

大氾濫スタンピートですか?」

「そう、こっちでは大災害と言ってるがな」


「そして冒険者が出来、ダンジョンが氾濫しないようにダンジョンに潜るようになった」

「そうですか、それでは外は安全なのですね」

「そうだな、だが魔王というのが大災害を引き起こしているらしくて調査に来たのが俺だ」

「分かりました!ありがとうございます」

「…すまなかった。そんな世界から来ていたなんて知らなくて、私の考えを押し付けてしまった」

 とカタリナが泣きながら頭を下げる。

「いいよ、分かってくれたならそれで」

 インベントリから弁当を出すと、

「これでも食べてくれ」

「これは?食べ物ですか?」

「あぁ。こうやって食べる」

 と一緒に食べると、

「美味しいです!」

「美味い!美味い…」

 と泣くカタリナ、限界まで意地を張っていたのだろうな。


「明日にはモノリスに着くはずだからここから出られるぞ」

「はい!ありがとうございます」

「ありがとう」

 と言って部屋に戻って行った。

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