バラエティバイトは素人のほうが面白い

ちびまるフォイ

素人の無法地帯

「父の手術にはそんな金額がかかるんですか!?」


「はい、専用の器材なども用意しますし

 特別な技術スタッフも必要となります」


「そんなの払えるわけ……」


病室の父はまだ眠っていた。

まだ症状は本格化していないとはいえ油断はできない。

今は歩けるし話せるがそれもいつまで持つか。


「わかりました、なんとか……してみます」


いつ急に悪化するやもわからない父の病状。

まっとうな仕事では雇ってくれるところもない。


アプリの隙間時間でできるバイトを探しているときだった。


「……これいいかもしれない」


バイトに応募し現地に向かった。

そこではカメラマンと主催者が待っていた。


「あ、もしかしてバラエティ・バイト参加者ですか?」


「え、ええ。はい。あのこれって」


「素人バラエティバイトだよ。もしかしてはじめて?」


「ですね。動画とか投稿するんですか」


「しないさ。現代人は暇と時間を持て余している。

 だからそこにバラエティ参加という場を与える。

 

 参加者にはバイト代がもらえるし、

 バラエティを生で見ている人は退屈をつぶせる。

 この世界にはエンタメが必要なんだよ」


「よくわからないですけど、お金がもらえればなんでもいいです」


「いいねいいね、その渇いた感じ。

 もし高評価だったら追加でチップもあげちゃうよ!」


「がんばります!」


素人バラエティバイトがはじまった。


番組ですらない素人企画に参加し、

そこでピエロとしてバラエティをこなすだけの簡単な仕事。


今回はバンジージャンプだった。

高いところは平気なのでためらいなくジャンプ。


バラエティ終了後、主催者からは規定額の報酬を渡される。


「うん……まあ。君なんていうかバラエティ向きじゃないかもね」


「そうですか?」


「だって全然ビビってくれなかったんだもん」


「お金が必要なんで」


「それじゃバラエティとしては……」


そう忠告されたが気にはならなかった。

別に芸人を目指しているわけじゃない。


自分の次にバンジーした素人バイトは、

中途半端に似ているモノマネをして変化をつけていた。


ああいうのを求められているのだろう。


バラエティバイトは短い時間で稼ぐのに向いていたので、

次々と企画を受けては淡々とこなしていった。


インタビュー系の企画では自分の身の上話を話し。

スポーツ系の企画では体を張ったり。


やがてアプリの中で自分のタレントLvが向上するのだが、

どういうわけか自分のLvは上がらないままだった。


しだいにバラエティバイトを応募しても弾かれるようになる。


「うーーん。君はこんなにバラエティ企画受けてて

 まだそのタレントLvでしょう?」


「なにか問題でも?」


「タレントとして魅力がないってことだよ。

 そんな人をわざわざ使いたくないかなぁ」


美形・美人。スタイルが良ければタレントLvの初期値も高い。

あまり感情が顔に出ない自分はタレントとして使いにくいらしい。


やっと参加できるバラエティのバイトもあったが、褒められるようなものでもなかった。


「いいか、この企画は他のバラエティバイトに乱入し

 自分たちがその企画を乗っ取るっていうものだ」


「そんなの大丈夫なんですか?」


「主催者からは嫌われるだろうが、視聴者は喜ぶ。

 観衆ってのは常に刺激と変化に飢えてるからな」


素人バラエティバイトの中でも、不人気タレントたちを寄せ集めたアングラ企画。


街ブラ系の素人バラエティをやっている中に、

自分たちが乱入しめちゃくちゃにかき回していく。


「はい! 乱入企画でしたーー!! テッテレーー!!」


乱入により番組は大盛りあがり。

視聴者は放送事故をお祭りのように楽しんでいた。


バラエティ終了後、乱入企画の収入も受け取ると同時に

乱入された側からも番組が盛り上がったとチップを貰った。


こんなに1度の企画でおおくの収入を得たのは初めてだった。


「なんて割の良いバイトなんだ。これなら手術費もいけるかも……!」


それからは乱入系企画ばかりに参加した。

それが長く続かないことを知るのは、依頼が尽きてからだった。


「……なんか全然こなくなったな」


以前は乱入企画など腐るほどわいていたのに、

もうすっかりその芽もなくなってしまい収入源が絶たれた。


ろくに自分で素人企画を考えずに乱入をし、企画を乗っ取る。


それ自体は簡単だし効率がいい。

でもみんながみんな同じことをすれば、誰も企画を考えなくなる。


すでにバラエティ企画の乱入系ジャンルは廃れ尽くしていた。

金が必要な状況はまるで変わっていないのに。


「ああどうすればいいんだ。手術たっていつまでも待ってくれるわけじゃない」


バラエティバイトも受けさせてくれるところはない。

いったいどうすれば……。


ふと思いつく。

それは逆転の発想だった。


「……そうだ。自分が主催者になればいいんだ」


これまではタレントとして企画に参加する側だった。

今度は主催者として参加する方法を思いつく。


一般的にバラエティ主催者側はバラエティ終了後、

参加したタレントに報酬を支払う必要がある。


稼ぐという意味では逆なのかもしれない。

しかし主催者側であっても稼げる方法を思いついた。



数日後、自分の用意したバラエティステージには多くの参加者が集まった。


「みなさん、私の主催するデスゲームバラエティへようこそ。


 多額の参加費を払ってやってきたみなさんの中から、

 生き残った一人が一攫千金を獲得できるでしょう!!」


バラエティバイトでは史上初のデスゲーム。


バイト側が金を払って参加し

優勝者には一定金額の賞金を渡す。


賞金を渡しても参加者たちの参加費の合計が多い。

そしてその参加者の多くはデスゲームで命を落とすだろう。


プラスマイナスで、プラスになるというわけだ。


ああなんて割の良いアルバイトなんだろうか。


「では最初のデスゲームは、ぬるぬる相撲です!!

 土俵から出た人はその場で死んでもらいます!!」


バラエティデスゲームが始まった。

最初の参加者は体力に自身のありそうな若者。


そして次に現れたのはやせっぽちの体をした……。



「父さん……?」



バラエティ用に仮面をつけている息子には気づいていない。


父は病気で削られた体を土俵になんとか入れる。

その瞳には背水の陣の炎が灯っていた。


「わしのために息子が必死で働いてくれとる。

 なのにわしだけ寝てていいわけない。

 ここで生き残って息子を楽にさせてやるんじゃ!」


スタートの合図が自動的に鳴ってしまう。

止めるヒマなどなかった。



父は土俵外にはじきとばされ、高圧電流でまっ黒く焦げて消えた。

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