甲虫転生 〜転生したら虫の王(幼虫)〜

根無 草🌱🌿

第1章 死界サバイバル

第1話 目覚め

side ???


目が覚めると闇の中だった。


(暗い…何も見えん、どこだここは。昨日は依頼で裏社会を牛耳る組織の拠点に乗り込んで…)


俺は混濁する記憶を引っ掻き回す。


(…いや、思い出した。

俺に依頼してきた対抗組織に完了報告をしにいった時に…蜂の巣にされた。)


そして思い出す、自分の最期の瞬間を。


(散々いいように使ってコレか…

だが、あれだけ撃たれて俺は生きていたのか…?

まぁ何かに詰められてるみたいだし、死ぬことには変わらんか。)


一気に脳が沸騰して怒りが湧くが、疑問と諦念ですぐに冷静になる。


(……身体も動かんし、手足の感覚もない。)


死んだ(と思われている)俺をどこかに埋めたかしたのか考えるもすぐにその思考も暗闇に溶けて消えた。


(………なんだ…やけに……眠いな。)


(──…しまった、寝てしまっていたか。)


再び目が覚めると俺は違和感に気付いた。


(ん…?手足の感覚がある。)


さっきまでは手足を動かすどころかのに。


(……妙だ。)


俺は自分の感覚を頼りに自分の身体を確かめる。

手、足、首、頭、と順に動かし確かめ、そして結論に至る。


どうやら今の俺は


(……………いかん、理解が追い付かん。だが夢と片付けるには余りにもリアルすぎる。)


だがどう足掻いてもそうとしか思えない、俺は記憶の中にあるとあるファンタジーな設定に辿り着く。


(これが…異世界転生というやつか?)


情報が足らない、ひとまずここがどういった世界なのか、俺が今どんな姿なのか知るためにココから出るとしよう。


────────────────────────


獰猛な猛獣や人を食らう植物、果ては猛獣すら喰らう巨大な甲虫がひしめく巨大な樹海。


この地は知性ある者達からは『死界』と呼ばれ恐れられている。


その森の中でもさらに奥深く、そこには獣や巨大昆虫、さらには翼竜の死骸が無数に転がっていた。


中心にはとりわけ巨大なカブトムシのような甲虫が陣取っていた。

しかし、全身の至る所がヒビ割れ満身創痍だった。


虫の王は自分の体の下にあるモノの無事を確認する。

だが、その全てが潰れて割れてしまっていた。


虫の王は自分の命の終わりがもうそこまで来ていると感じていた。

それ故に悟る、我が一族はここで潰えると。


虫には感情など存在しない。


虫には死の恐怖など存在しない。


だが


それでも



我が子を守りきれなかった。

この森のとしてではなく、としてでなく、として。


己の中に生まれた後悔を噛み締めるように割れた卵を前に項垂れるように佇む。


コン


硬いものを小突くような音が響く。

その音を聞いて女王は頭を上げる。

目の前ではない別の場所からコンコンと音が鳴り続けている。


驚異的なまでの感知能力を駆使してすぐに音源を見つける。


女王はをそっと掬い上げる。


掬い上げた卵に願う。

強くなくていい、王として君臨しなくていい、ただ…生きて欲しいと。


女王が切に願うと卵が激しく輝き、殻が割れ中から幼虫が現れる。


その瞬間を目にして、森のあらゆる蟲を統べた甲虫の女王は安堵し、眠るように力尽きた。


────────────────────────


side ???


俺が暗闇の外に出ると、目の前にはとんでもなく巨大なカブトムシがいた。


(なんだ…この巨大なカブトムシ(?)は…)


俺の疑問を他所にカブトムシは俺が生まれたのを見届けるとズンと地を揺らして力尽きた。


(よく見れば傷だらけだな…)


俺はグルっと周りを見て、様々な獣や巨大な虫の死骸が至る所に転がっている。


(………異種族間で戦争でもあったか?)


そして俺は力尽きたカブトムシの真紅色に輝く巨大な瞳(?)部分に映る自分を見た。


そこには某怪獣映画に出てきそうな額から立派な一本ヅノを生やしたいかにもな芋虫がいた。


俺はしばらく深紅の姿見に映る自分を眺めたあと、空を仰いだ。


(よりにもよって…虫か…)


人型じゃないのは分かっていたが、実際目の当たりにすると色々複雑ではあるわけで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る