第14話


 

 「ビクトリア!起きて!」

「シリルぅ?どうしたの?」

「受験番号200番、ビクトリアさん。失格にしますよ」

私は慌てて飛び起きた。周りの人は皆、笑っていた。

嘲笑されているみたいだった。また他人に迷惑をかけてしまった。晒し者にされている気分だった。

私は赤面してしまった。


「それでは、最後の試験の説明を致します。

試験内容は単純です。この的にあなたの最高火力の魔法を打ってもらいます。この試験はあなたの魔法の属性やこれまで、どれ程魔法に勤しんで来たのかなど、総合的な魔法の指針となります。最後まで、気を抜かない様に」


「順番に呼んでいきます。尚、自分の番が終わり次第、帰宅する事を許可いたします」


「それではまず、ジャスパーさん。来てください」

ジャスパーがはじめに呼ばれた。


「はい」




「では先ほども説明した通り、あなたの最大火力の魔法を見せてください」


「承知しました」


ジャスパーは的に向かって魔法を放つ———。

『Piece of Cake!!!!《楽勝》』


轟く雷撃が的を射ぬく。



「ほう。この年にして自己オリジナル魔法ですか、流石です。しかし、基礎力が欠如してますね。

的をご覧なさい。窓の中央は激しい電流によって焼け焦げていますが、周りは全く無傷です。魔力が分散してしまっています」


「ボクに基礎など必要ありませんよこのまま火力を上げていけば、的を破壊する事など楽勝」


「魔法は、基礎ができていなければ火力を上げる事など到底不可能ですよ。本日はお疲れ様でした」



「どうだった?ジャスパー」

ガーネットはジャスパーに試験内容を聞いた。

「この学校は腐り切っている」

ジャスパーは捨て台詞を吐き、足早に立ち去ってしまった。


「なんだアイツ」



「シリルさん、来てください」


シリルが呼ばれた様だ。

「頑張れよ!シリル!」

「うん!頑張るよ!」


「いきます!」


『Basic Ice!!!!《基礎 氷》』


「なかなかの腕前ですね、感心します。基礎力もすこぶる高い様ですね。お疲れ様でした」


「ありがとうございます!」


「シリル!よかったぜ!」

「ありがとう!あと、ぼく、みんなが終わるまで待ってるよ!その方が、みんなも安心するでしょ?」


「それいいな!俺もシリルがいた方がほっこりする」


「ガーネットさん。こちらにどうぞ」


「呼ばれた!かましてくるぜ!」

ガーネットはカーディガンを腕まくりした。やる気が溢れて出ている。


「では、よろしくお願いします」


「いきます!!」


『Basic Flame!!!!《基礎 炎》』


激しい業火が的を焼き尽くす。あまりにもの火力に的は焼け焦げてしまった。


「素晴らしい!的を焼き尽くした受験者は早々いないです。火力も基礎力も申し分ない!お疲れ様でした」


「ありがとうございました!」

ガーネットは小学生の挨拶みたいにご機嫌に挨拶をした。


「やったぁ!」

「的を焼き尽くすなんて!凄いよ!ガーネットくん!」

「へへっ!サンキュー。最後はビクトリアだな!頑張れよ!」


「……どうしよう。私、魔法コントロールできないのに」

私は急に押しかかる不安感と虚無感に苛まれた。


「大丈夫だよ!ビクトリはぼくたちを救ってくれたんだ!きっと物凄い魔法が打てるよ!」

「俺もそう思う!」

「……ありがとう。2人とも」


「ビクトリアさん。来てください」

私は深呼吸をした。

「……行ってきます」


「受験番号200番、ビクトリアさんですね。

では、よろしくお願いします」


「お、お願いします……」


どんな魔法が良いのだろう。何属性の魔法が良いのか?フォームは?やり方は?全てが分からなかった。


「どうしたのですか?」


「い、いぇ!!なんでもありません!

では、いきます!」

私は無難に炎属性の魔法を打つ事にした。さっきガーネットが打った様な火力ではなくても、そこそこの火力を出せたらいいかなと思った。


私は万年筆のキャップを外し、構えた。

空中に、《Basic Flame》の文字を描きそれを反転させ、呪文を唱えた。


『Basic Flame!!!!!《基礎 炎》』


空中に描いた文字が炎になって光り、それが瞬く間にフェニックスの様な形のフレアを描き、的に向かって刹那的に疾駆し、中心を射ぬいた。

的は一瞬にして焦げてしまった。

しかし、それだけでは留まらず、その奥にあった木造の校舎にフェニックスは突っ込み、唾を飲み込む隙を与えずに、瞬間的に全体が炎上してしまった。


私は恐る恐る後ろを見た。


みんな口をあんぐりと開けて唖然としていた。


「試験は一旦中止です!!!消防団を呼んで来ます!そこで、待ってなさい!」


試験官はその場を離れた。

私はただ、その場を呆然と見ている他なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る