第3話


 「ここが俺の城さ。ここら一体には結界が張ってある。さぁ中に入ろう」

お世辞にも城とは思えない、さびれた外観だった。

蔦が這っているのが不気味さを増す。

中に入ると、山積みにされた本や、魔法に使いそうな怪しい道具が置いてあった。

「3階に使ってない部屋がある。好きに使うといい。」 私は返事をする前に、

「ここはどこ?あなたは何者ですか?さっきの怪しい人は誰?そしてなんで魔法が使えるの?」と答えた。

ジョウンを質問攻めにしてしまった。

彼は「やれやれれ」とした顔をしていた。

「まぁ、じきにわかるさ」

「……でも」

「分かった。さっきの奴は秘密警察だ」

「どうして追われているの?」

「残念だが、今はいう事が出来ない」

「そう……」

「そう落ち込むなよ?この街結構楽しいぜ?」

「でもこの街怖い……ずっと霧が立ち込めて不気味でしょ」

「“ミスティックポリス”それがこの街の名前さ」

「……私、歩いてたら突然霧に覆われて……それで……」

「分かってる、で、この街に迷い込んだんだろ?」

まるで全てを知っているかのような言い回しだった。

「この街は君を選んだんだ。こんな言い伝えがある。

“黒髪の魔女が舞い降りし時、全ての霧が晴れ、悪を打ち砕き、平穏が訪れるだろう。“と」

「それが私って事?違うわ。私、魔法が使えないの」

「使えないのか?君から凄まじい魔力が溢れているけどな。その万年筆からも」

万年筆は持ってきてないはずなのになぜ?ポケットの中を探った。左ポケットにいつのまにか入ってた。

「いいか?物には魂が宿るんだ。物と人間との絆が深まればどんな事だって乗り越えられる。その万年筆だって君の身に危険を感じてひとりでに動いたのかも知れない」


ジョウンは杖傘の先端をくるくると回し、キャップの内部を見せてきた。複雑な作りになっている機械だった。

「これは魔力発生装置だ。人体から溢れ出る魔法魔力と物から出る魔力を折衷させて、魔法を出すサポートをする機械だ。」

「さっぱり意味がわからないです」

「そりゃそうだよな。簡単に説明すると、魔法を繰り出すのに杖はいらないんだ。一般的に魔法は手から繰り出す。手から出す魔法は強力だ。だが、魔力を消費するスピードが早い。で、そこで誕生したのが杖だ。人体から繰り出す魔法を上手くコントロールし、適切な魔法を出す事で、魔力の消耗を抑える事ができる。更に杖と人間との深い絆があれば、自分の実力の何倍以上もの魔法を繰り出す事ができる。」

「だが、その当時使われるのが多かった素材は木だ。

木には魔力が一番溜まりやすく、身近にあった為、たくさん使われてきた。だが、人間との魔力との乖離が大きい事や相性があり、全ての人が杖を使えた訳ではないんだ」


「だから、魔法を使うものは今まで、手でコントロールしてる奴が多かったんだ。

だが、今から100年前、とある魔法使いが、魔法発生装置をついに完成させた。自分のお気に入りの物であったり、思い出深い物に、この装置を取り付けるだけで、魔法を発生させることができる様になったんだ。自身との思い出深い物に装置を搭載すれば、絆が生まれやすい」


「俺はこの店で、お客の適切な魔力発生装置を売ることを生業としている」

「でも私、こと街に来てから一度も魔法使いを見てないです」

「いい観察眼だ。実はこの世界は近年、科学の発展により、魔法が主流では無くなったんだ」


「だが、君には才能がある。明日魔法学校で入学試験がある。そして、この世界を救ってくれ」

「なんで、私が.……私不器用だし、それに……」

「いいことを教えてやる。君が大好きなお母さんはこの世界で生きているぞ」

仰天した。母は死んだはずなのに。咄嗟に

「……なんで、私の母がこの世界にいるのですか!?母はもう死にました」と答えた。

「君が魔法学校に行ったら会えるかもしれない」

「そしたら、母に会えますか……!!」

「あぁ……そうかもな」

私は半信半疑だった。


「そうだ。今の名前だと怪しまれる。名前を決めておこう。ビクトリアどうだ?」

「なんでビクトリア?」

「秘密だ。魔法学校に俺の旧友がいる。明日の試験に間に合う様に連絡してやる。明日は早い。三階の部屋を使ってくれ。もう誰も使ってない」

「なんか……ありがとうございます。おやすみなさい。

「ビクトリアもな。おやすみ。」


私はこの世界に母がいる事は完全に否定している。そもそも、この世界が怖い。だが、母が生きていることに一縷の望みをかけて、一歩を踏み出そうと思った。


キシキシと音が鳴る急な木造階段を登り、三階の部屋のドアを開けると、水色で統一された可愛らしい部屋が現れた。完全にあの人の趣味ではなさそうだ。私はぐったりとベットに横になると、すぐに眠りについてしまった。

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