第2話
「ねぇ、ひなた。お母さん、あなたがいてくれて本当に幸せよ。ねぇ、ひなた。あなたは全ての人を照らす光になるのよ。ねぇ、ひなた。お前がいなければ私は死ななかったのに!!!!」
「ハァ!!!」
私は勢いよくベットから飛び起きた。どうやら悪夢にうなされていた様だ。まだ時計の針は朝の五時を回っていない。しかし、寝ようとしても悪夢にうなされて寝る事ができない。私はとうとうベットから起き上がった。化学繊維のカーテンを開けると、外には濃霧がかかっていた。ここ一ヶ月、この街は霧がかかる事が多い。しかし、私が学校に登校しようとすると、間も無く霧が晴れ、安全に登校する事ができた。それは誰かが私の為に霧払いしてくれている様だった。
私は黄色いコートを着て、気持ちを落ち着かせる為に、外に出た。家の外おおよそ2〜3分歩いたが、霧は晴れない。いっそどこか遠いところに行きたい。この事を忘れよう。私の脳裏に魔が差す。
見慣れない道を進んだ。しかし、歩くごとに霧が濃くなり、がむしゃらに歩むが、更に濃くなる。街灯でさえも自ら光るのを諦めた位に光が届かない。とうとう周りの景色も見えなくなり、私は、完全なる濃霧の中に閉じ込めさせられた。だが、このままでは拉致があかないと思い、進み続けた。光が見えた。太陽が昇ってきたのだろうか、私は希望が見えた様な気がして走り出した。
しばらくすると、石で舗装された通りに出た。建物も十九世紀のイギリスを彷彿とさせる建築様式だった。
「大きい通りに出れば素晴らしい景色が望めるかも知れない。」
私は全速力で走り出した。細い、入り組んだ道を疾走し、霧の中をかぎ分けて、猪突猛進した。しかしそこは———
「なに……ここ……」
レンガの鉄道橋には蒸気の列車の轟音が鳴り響き、蒸気を燃料とし、タービンを回しモクモクと煙を出している。空は霧と煙が混じり合い、独特の空気感を醸し出す。私は不安と恐怖に苛まれ再び走り出した。街の人々をかぎわけて走り出した。みんな私を睨む。
とうとう入った小さな路地裏を抜け、石橋の下の下水の下に座り込んだ。
時刻は夕方を回った。空の煙は一向に消える気配をしてはくれない。
「おい、お前、ここは俺の家だ。邪魔だ出ていけ!」
ホームレスと思わしき人が近寄ってきた。
「あなたのお家だったのね、ごめんなさい」
その後、私は来た道を戻ったが、帰り道はどこにも見つからなかった。
「もう私の居場所はないのね。」
「よぉ、姉ちゃん、今から俺と呑みいかねぇかぁー」
不良が話しかけてきた。
「やめてください、それに私、未成年なので……」
「なんだ?!行かねぇのか!あぁ!?」
「女性に無理強いはやめた方がいいそこの君!」
杖傘を持った紳士が割り込んできた。
「テメェだれだ!こいつとどんな関係だ!」
「俺の娘さ。」と紳士は言った。
「娘!?」私は思わず声に出てしまった。
不良は舌打ちをして帰って行った。
「あの……私……」
「事情は分かっている。案内するよ。俺の名前はジョウン。急ごう。今、君は追われているんだ。」
ジョウンは私の手を優しくひっぱり、歩き出した。
途中何者かの気配がして恐怖を感じた。細い、入り組んだ道を何往復もし、ジョウンは何者かを撒こうとした。しかし、行き止まりに差し掛かった所で、ついに何者かに通せんぼうされた。
白いフード付きロングコート、頭がフードに覆われていて、顔が認識できない。
男は開口一番に、「ジョウン様ですね。署までご同行を願います。」とジョウンに語りかける。
私はすかさずジョウンの顔を見た。笑っていた。
「いやぁ君はしつこいなぁ。でも最近、魔法発生装置を改良したんだ」
「魔法———!」
私はその言葉に若干ときめいた気がした。
「いいか?今からアイツの化けの皮を剥がしてみせる」
ジョウンは懐の杖傘を剣のように構え、戦闘状態に入った。
「もう勝負はついたよ」
ジョウンは閃光のように疾駆し、こう唱えた——。
『Stab someone in the back!!《肩透かし》』
男の体は時間差で爆発し、みるみるうちに溶け出し、フードだけが残った。人間ではなかった。
「あの……さっきの」
「追手が来る、さぁ逃げよう」
ジョウンは細く入り組んだ道に、私を誘った。
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