第一章 四話 『宴会』
「さぁ主殿。大宴会といこうじゃねぇの」
そういうとミレは大きな声で大広間に向かい叫んだ。
「我らが神! 救世主! ユグドラシル様の入場である! 皆の者! 歓喜せよ! 愛を形として送れ! 彼がここに立ち! 指揮を取ることを誉れとせよ!」
「「「うぉおおおおおおおお!!」」」
ユグドラシルが踏み入れた大広間は――圧巻という言葉が相応しかった。
幾数多の声に大気が振動し、足の裏に感じる畳の心地よさなど忘れてしまうほどに。
品のある和室で構成された大広間は、奥行が目算五百メートル以上あるだろう。一段下がった畳を全て――人間以外の種族が埋め尽くしていた。
「す、すごい……」
心の声が漏れる。
見渡す限りの悪役たち。
数千、数万という数の種族達が歓喜の声をあげユグドラシルを迎えた。
涙を流しながらユグドラシルを見つめ拍手するもの、喜びのあまりただ頭を下げるもの。雄たけびを力の限り上げるもの。
歓迎の仕方はそれぞれであった。が全てユグドラシルのためであった。
「静まれ!」
人造兵器のミレ・クウガーはそれらすべてを一蹴する。
副官の声に呼応するように雄たけびは収まり、ユグドラシルの一挙一動に神経を注いだ。
「これより! 我が主殿の挨拶である! 皆のもの! 心より承れよ!!」
ユグドラシルが皆(みな)の畳の前に立った。
ユグドラ――いやアキは心を落ち着けた。
彼らが望む声とは、自身の言葉ではない。彼らの神、ユグドラシルとしての言葉である。
太郎の作った物語により、この世界は血にまみれている。
人間と戦争をしている目の前の種族たち。彼らにも家族があり友人や恋人がいる。
彼らの主観から見れば、人間とは彼らの生命活動を阻害する悪し敵であり、敵でもある。自身の土地を乗っ取り、友を奪い家族を葬った存在。
『魔女争奪戦』においても、異形達は命を懸けて戦った。
人間に勝利するために――自らの命、プライド、家族を守るために。
だから、みんなが望む言葉を。
体現しよう、彼らの望む存在を。
アキがイメージする、本物のユグドラシルを。
「昨晩の戦い――みな、ご苦労であった」
最初の言葉は、まるで聖母のように優しく微笑みかける、そんな愛を込めた言葉にした。
まるで誰か――神と呼ばれる存在が乗り移ったように。
「ユグドラシル様……」
「復活なさった……我が主よ」
小さな声が漏れる。理性が決壊したように、異形達は感情を流す。
それを歓喜という。涙という。安堵という。
涙を流しながら、異形達は喜びを噛みしめた。
彼らは――この瞬間を待ったのだ。
先代の勇者と国王によってユグドラシルは窮地に陥れられた。そして結果、封印という形で難を逃れる。
だがその封印はいつ解かれるか分からない。
それでも、彼らは戦ったのだ。
友が死のうとも。恋人を戦地に送ろうとも。
ユグドラシルさえいれば、戦争に勝てると信じて。
「これまで……辛い戦いをさせた。勝利以上の悲しみを背負ったこともあっただろう」
寄り添うように。
そんなことはありません――とどこかから聞こえる。
それに同調し多くの魔獣とも呼ばれるものたちが声をあげる。
「だが! それも今日で終わりである! 私は復活した! お前らの主であり! 神であるこのユグドラシルが!」
「そうだ! 神は我々についている!」
「命を燃やせ! 残りの全てをやつらに!」
雄たけびが聞こえる。
封印された主のユグドラシルの復活を信じて。
神になった男は言葉をつづける。
「お前たち!
その声に、数千、数万の化け物たちは立ち上げり
ユグドラシルは酒を一気に飲み干した。喉と鼻が焼け焦げそうな熱に襲われる。
化け物たちもそれに続き、注がれた酒をかきこむ。
「この味を忘れてはならない。これはお前たちの命の味だ」
そしてアキは笑った。
「だが安心せよ。怒りは俺が全て引き受ける。魔神となり、灰となったお前たちの怒りはしっかりやつらに飲ませてやる」
くっくっく――、と。
「さてお前たち、勝利の準備はいいか?」
それは――本物の悪役のように。
「人類を! 殲滅せよ!」
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