【エピソード感想】Alone ~元特殊部隊所属、ジャック・カミンスキー~/Yujin23Duoさま 《1》

>◇「参加作」を読もうと思った理由:あり


 やはりインパクトがあるのはキャッチコピーですね。一見してハードボイルドな世界観であることが伝わってまいります。洋画風の異世界ファンタジーというのも唯一無二の世界観ではないかなと。実は本作は、以前から気になっていた作品でしたので、ぜひとも拝読させていただきたいと考えておりました。


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 先にお伝えさせていただきたいのですが、本作の感想は性質上、「あらかじめ〝通し〟で読んだ上で、記憶をさかのぼる形で感想を書く」という形式を執らせていただきます。そのため「現時点では判明していない名前」などを、感想内では先出ししております。本作は正式名が登場するまでの「代名詞で呼ばれている期間」が長く、これまでのフォーマットでは感想を書くことが非常に困難であったことが理由です。


 もちろん、だからといって「駄目な作品」だというわけではありませんからね。あくまでも私が勝手に決めたルールによる、私側の問題です。ここはお間違えのないようにお願いいたします。



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 まずは大前提なのですが――。本作は一見すると「三人称視点の小説」であるように見えますが、実際に読んでみますと「一人称の、カメラマンから見た視点」のような語り口となっておりますね。つまり登場人物+語り手が作中にいる状態です。


 作中には〝車の方へ視線を戻す〟や〝前を見ると〟といった視点移動を示す文言がありますが、これは登場人物らの行動を表しているのではなく、「カメラ」が移動したことのみを示しています。たとえば「登場人物は手元の地図を見ている状態のまま、カメラだけがズームアウトして別の人物を映す」といった状態ですね。


 ここに気づくまでは非常に混乱したのですが、わかると大変面白い試みであるなと感じましたね。本作には「洋画」を思わせる要素が多く含まれておりますので、世界観の構築にも一役買っていると思います。




>一話 突入 Ⅰ


 いきなり血生臭い場面からの開始ですね。良い始まり方であると感じます。現場の状況から察するに、銃撃戦でも行なわれたのでしょうか。全身が炭化した死体もあることから、強力な炎が使われた可能性もありますね。


 そんな光景に目をくれずに歩いてゆく〝男〟が一人。瀕死のゴブリンが男を〝ジャック〟と呼んだことから、彼が主人公であることが窺えますね。亜人とはいえ、ゴブリンが人間扱いされているのは個人的に高評価です。


 そのゴブリンから死に際に〝銀色に光る固く拳を模ったペンダント〟を受け取ったジャック。今後なんらかの重要なアイテムとなるのかもしれませんね。ここで重要な情報は〝銀色〟と〝拳〟だと思われますので「拳を模った銀色のペンダント」と簡略化してもよいのではないかと感じました。後の描写を見るに、貴金属的な色味ではなく、無骨でメタリックな質感であるように見受けられましたからね。



 さて、場面が変わり、相棒と思われる男の声で目覚めるジャック。さきほどの光景は、彼の夢だったようですね。ここまでジャックは声を発していないのですが、それでも彼の造形がなんとなく浮かび上がってくるのは素晴らしいと思います。


 また、この場面の情景描写も良いですね。車の中から見たネオン街。ラジオからは政治に関するものと思われるニュースの音。殺伐とした雰囲気が伝わります。


 ここで登場する〝ジャン=クロードヴァン・ダム〟の名、明らかに賛否が分かれそうではありますが、個人的には良い感じであると思います。ここまでの短い場面においても、この作品世界は充分に構築されていると感じますし、少なくとも「これ」で没入感が阻害されるといったことはありませんでした。


 どうやらジャックの相棒は〝エルフ〟のようですね。ここでは名前が登場しないのですが、彼は〝ショーン〟という名前です。指が発光していることから、何らかの能力を持っていることが察せます。



 合間に挟まるラジオのおかげで、この世界には〝転生者〟がいることなどもわかります。そして、この〝ユニティア合衆国〟の政治は転生者らに牛耳られているとのこと。異世界のカナダといったところでしょうか。外国人に政権を奪われた結果、カナダ出身者はいても、カナダ人はいなくなりましたからね。他人事じゃないですね。


 ここで新たに〝髭面〟と合流し、目的の酒場へ近づいた三人は魚人の一団を制圧します。そして何事もなかったかのように、酒場の中へと入ってゆくのでした。


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 文章の改善点が選択されておりますので触れさせていただきたいのですが、私は、この〝一話〟を三度も読み直しました。――と、申しますのも〝髭面〟の存在に非常に戸惑ったためなんですよね。


 初読の際、私は「ジャックとエルフA(ショーン)が車の中から、尾行対象である〝髭面〟とエルフBの会話を聞いている」という場面を思い浮かべていたのです。なぜそう思ったのかというと、ラジオの音声がずっと流れ続けていたためですね。これが聞こえているということで、ジャックとエルフAが車の中におり、別の車に〝髭面〟とエルフBが乗っていると思いました。


 しかしながら途中で「なんだかおかしいな。もしかしてジャックが〝髭面〟と呼ばれているのか?」と思い、再び最初から読み直してみたのです。すると今度は〝一話〟のラストにて〝三人は何事もなかったかのように、酒屋へと入っていった〟との文言があり、もう一度読み直しました。そして、ようやく登場人物が〝ジャック〟と〝エルフ〟と〝髭面〟の三名であることが把握できたというわけですね。



 おそらく作者さまの頭の中には、確固たる映像が浮かんでいるのだと思います。ですので私のこうした読み方は「読解力がないな」と思われてしまうかもしれません。しかしながら、実際に私は、このように読み取ってしまったんですよね。


 今では本作の「読み方」が理解できましたので、読み違えることは無いかと思われます。視覚情報および聴覚情報は常に「カメラマン」が握っており、ジャックたちは彼の目の前で行動しているというわけですね。


 察するに、この「カメラマン」は我々と同じ現実世界の存在なのでしょう。こう考えれば〝ヴァン・ダム〟の名が出てくることの違和感も、完全になくなりますね。




>二話 突入 Ⅱ


 酒場へ突入したジャックたちが、近接格闘で魚人たちをなぎ倒してゆく場面ですね。ここのアクションシーンはかっこいいです。特に髭面の使う魔法の警棒が良い味を出していますね。稲妻の描写が薄暗い酒場にも映えます。「ワイヤーで引っ張られたように飛ぶ」という表現も、映画的で好きですね。


 魚人たちはマグロにブリに太刀魚の顔をしているとあり、ちょっと美味しそうですね。寿司が食べたくなりました。独特の叫び声も異形感があって良いですね。


 そして、ついに台詞を発したジャック。最後の一言は哀愁があって素晴らしいと思います。ここまでに溜めた「重み」も感じられました。


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 〝一話〟と比べてかなり読みやすかったのですが、この〝二話〟の出だしの場面は少し引っかかってしまいました。空行は省略し、少し引用いたします。


【 木造の中は居酒屋だ。奥にカウンター、至る所に置かれたテーブルやイス。広さはジャック達が盛大に暴れれるくらい。】


 意味は理解できるのですが、〝木造の中は居酒屋だ〟よりも「木造の建物は居酒屋だった」や「この居酒屋の内装は、主に木が使われているようだ」といった言い回しの方が適切であると感じますね。〝木造〟とは「建築物だけ」を指しているわけではありませんからね。木造の家具や日用品などもあります。読み進めた感じ、特に〝木造〟でなければならない必要性は感じませんでしたので、「薄暗い居酒屋」という情報だけでも、アウトローな雰囲気は伝わってくると思います。〝至る所〟も〝いたる所〟と開いた方が理解しやすくはありますね。漢字のままだと「あらゆる場所」という以外にも、「カウンター奥の至った場所」とも読み取れなくもないですからね。


 あとは〝暴れれるくらい〟のところですね。私は本作を「カメラマンの一人称視点である」と感じているのであまり違和感はないのですが、一般的な三人称である場合、地の文では極力「口語(話し言葉)」は使わない方が引っかかりがないですね。ですので、ここは「暴れられる」とした方がよろしいかと存じます。


【 居酒屋の床は木造で、奥にカウンター席があり、いたる所にテーブルやイスが置かれている。これだけの広さがあれば、ジャック達も盛大に暴れられるだろう。】


 もしも私が修正するとすれば、このような感じになるでしょうか。あくまでも提案の一つとしてお納めくださいね。



 もう一つは〝ポキっと鈍い音が響く〟の部分ですね。〝ポキっ〟ですと軽い音に聞こえてしまいますので、「ボキっ」か「バキっ」の方が〝鈍い音〟に近いでしょう。


 それ以外の部分、特にアクション描写は、ゴア表現も含めて素晴らしいと感じました。バイオレンスな雰囲気に惹かれた読者の中には、ここで本作のファンになった方もおられるのではないでしょうか。テンションが上がりますね。




>三話 打ち上げ Ⅰ


 激闘の後、魚人たちを制圧したジャックたち。ですが圧勝というわけにもいかず、それぞれも傷を負ってしまったようですね。特に髭面は銃弾を受けてしまったらしく、肩から流血しております。その辺の死体の体から剥ぎ取った布を包帯にするあたりなどは、特に良い描写であると感じました。


 酒場の奥には異種族の女性たちが囚われており、ショーンの恋人らしき〝キーラ〟の姿もありました。一人だけ服が汚れていなかったということで、酷い目には遭わされてはいないようですね。彼女はカタコトで話しており、時おり異国語も飛び出します。ショーンの台詞から察するに、エルフの彼らは〝異世界人〟なんでしょうか。



 一仕事を終えたジャックたちは別の酒場で〝打ち上げ〟をはじめます。周囲の客らの様子が描写されているあたりもお気に入りですね。安い酒場ならではの、騒がしい雰囲気が伝わってまいります。ジャックら三人は警察官ではなく、警察から依頼を請けて仕事をこなすエージェントのような仕事をしているようですね。警官の態度や報酬の少なさから察するに、かなり苦しい立場であるようです。行政機関の彼らからすれば、「クズにはクズを当てておけ」みたいな感覚なんでしょうか。


 ここで新たな事件が発生ですね。髭面の受けた傷は「ただの傷」ではなかったようです。うろたえるショーンとは裏腹に、ジャックは冷静な様子。傷の正体を言い当てておりましたし、彼の過去にも何か関係がありそうですね。




>四話 頼み


 髭面は一命を取り留めてはいるようで、救急車に乗せられておりますね。そんな彼を横目に、ショーンがジャックの過去を追及します。


【「それでも実物はあんま見たことねえ、始めて見た時はびっくりしたよ」】


 ここの〝始めて〟は〝初めて〟が正しいですね。



 ショーンと別れ、タクシーに乗り込むジャック。最初の車はショーンのものだったのか、それとも飲酒運転を気にしたのか。車窓外では無法地帯のような危険な場面が映し出されておりますが、ジャックはルールに厳格な男なのかもしれません。


 雑貨屋の映像は、実際の光景なのかジャックの回想なのか判断できないところではありましたが、彼の過去の一面を知るという意味では良い塩梅であると感じます。


 ジャックの家は川のほとりのトレーラーハウスであるようですね。表札が〝顔写真〟なのも興味深いです。他種族にも伝わるようにといった配慮でしょうか。テレビドラマの場面も印象的です。〝現実とは違う銃声音が何度もなり響いていた〟という表現によって、ジャックが現実の戦場にいたことを察することができますね。



 まだ断片的ではありますが、ジャックは過去に戦場におり、民間人あがりの相手側の兵士たちを殺害したことが深い心の傷となっているようですね。


 どうなのでしょうね。私個人の感覚としては、相手が武器を持って戦場に立った以上、たとえ子供であっても「戦士」として相手をすべきであると考えておりますが。圧倒的な実力差がなければ、相手を無力化することはできませんからね。しかしながら、一般的にはジャックのような感覚の方が、普通なのかもしれません。


 彼の手元には〝一話〟冒頭で受け取ったペンダントがあり、〝スティール〟という名前が彫り込まれているようです。そして傍らにある精神病院のチラシには〝記憶操作〟の文言が。――良いですね。記憶処理が登場する物語は大好きです。今後の展開にもワクワクしてまいります。



 そして最後に謎の男が登場し、「あらすじ」にもあるアタッシュケースをジャックに渡して息絶えます。彼の口から出た〝ワシントン〟の名は、我々の世界と同じ場所を指しているのでしょうか。〝ラスベガス〟が異世界の都市とのことでしたので、もしかするとジャックも異世界人であるのかもしれませんね。


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【家の中は狭く、ある程度の生活様式がそろっている。】


 ここの〝生活様式〟は「生活用具」や「生活用品」もしくは「家具一式」あたりが適切でしょうか。生活様式というと、「生活スタイルそのもの」を指しますからね。


【照明を着けても余り光らないが、無いよりはマシといった感じである。】


 この部分も口語調なので、「照明を点けても薄暗いが」や「あまり照明は役立たないが」などが適当であると思われますね。


【  ジャックの疑問を無視した男は、全てを伝えたのか、悔いのない表情で空を見上げている。】


 ここだけ2マス字下げされておりますね。



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 さて、感想も5000字を越えておりますので、これで各エピソードの感想を終えさせていただきます。非常に読み応えがありましたね。あとは次のページにて、各オプションに基づいた感想のまとめを述べたいと思います。

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