【創作論】幸崎 亮の〝作品の読み方の話〟

専門用語を無理に覚える必要はない

 作品に触れるうえで、「専門用語」は切っても切り離せない関係です。「私」や「男」などの一人称で書かれたものを除けば、まずは「登場人物名」という専門用語と、否応なしに触れあうことになりますからね。


 特に「ファンタジーが苦手だ」と仰られる方の中には、この「専門用語」を苦手としている方もおられるのではないでしょうか。


 私はどちらかといえば、序盤から専門用語が大量に出てくる作品が大好きです。なぜならば、その意味が理解できた時に、二度も三度も驚きを味わえるからなんですよね。初めから読み返すことで、同じ作品でもさらなる面白さを味わえます。



 では、「幸崎は専門用語を覚えるのが得意なのか」というと、じつはまったく得意ではありません。特に序盤から「キャラクタの長いフルネーム」が登場しても、確実に読み飛ばしております。また、具体的な数字も覚えません。しかし、これでも物語の理解に支障をきたすことは、今のところは無いんですよね。


 重要な人物ならば頻繁に名前が登場しますので、そのうち自然と覚えられます。キャラの家名が重要な要素であるならば、フルネームや家名で呼ばれる機会が増えることで、必然的に記憶に残ります。


 たとえ「ネームド」でも特に重要な人物でなければ、そもそも覚えなくても問題ありませんからね。退場したままでも構いませんし、再登場の時に「誰だったのか」を説明してくれれば充分です。「そういえば、あの日のパーティーにも来てたっけ」などの一文があれば、「ああ、あいつか」といった感じに思い出せます。



 地名や世界観に関する名称も同じですね。「覚えなきゃ!」と気負わずとも、そのうち記憶に残ります。「なんか主人公が最初に居た場所」程度の認識で大丈夫です。

数字に関しても、もしも「二百年前」が重要な要素であるならば、頻繁に「二百年前」という単語が出てくることでしょう。「人口、五十万人」の場合も同様です。



 逆に、作中オリジナルではない、ありふれた単語の場合には色々なものと混同することが多いです。レビューやコメントを書く際に「魔法だったかな? 魔術だったかな?」と、確認のために読み直す場合もありましたね。


 基本的には「おにぎり」と「おむすび」、「火」と「炎」程度の違いである場合が多いのですが。作品によっては明確に用途が分かれている場合もありますので、こういった部分は、あらかじめ覚えておくと面白いでしょう。



 とはいえ、辛口批評などでは序盤から専門用語が登場すると、「専門用語が多すぎる」、「読者を置いてけぼりにしている」という評価を受けることが多いです。私は基本的に「辛口批評」には賛同的なのですが、「これ」に関しては、個人的には思うところがあるんですよね。


 なぜならば、どんな作品であっても「読みはじめ」は専門用語まみれです。素人が書いた作品も、世界の巨匠が創った超大作も同じです。


 最初は、どこか知らない世界の、知らない人物の知らない話を聞かされるわけですからね。「それが物語」である以上、専門用語が一切ない文章はありえません。


 もちろん書き手による努力が必要でしょうが、ある程度は読み手側からも歩み寄る必要があります。作家という「伝える専門家」である以上は「伝える努力」を惜しんではいけないのですが、やはり限度というものはありますからね。はじめから思考を放棄し、完全に相手任せの受身の状態になってしまっては、何も頭に入りません。


 そもそもの話、これは「専門用語の内容」ではなく、「専門用語そのもの」に対して忌避感を抱いているんですよね。わからないならば、わからないなりに、文字列だけでも「読んで」おく。それで「そういうものもあったな」程度にでも、記憶に残っていれば充分です。


 いずれ同じ用語が登場した時に、「そういえば、前にも出てきたな」と記憶が蘇りますからね。そうすれば自然と、意味や用途は理解できるようになるでしょう。



 話を元に戻しますと、専門用語を無理に覚える必要はない。

 ただし「拒否せず、受け入れる」と、いった感じですね。


 特に子供の頃などに、理解できずとも読んだり遊んだりして、大人になってから「あれ」の意味がわかった――と、いった経験をした方もおられるでしょう。


 基本的に書き手は、読み手に理解してもらうために書いています。

 ですので読み続けていれば、そのうち理解できるようになります。


 それに、すべてを完璧に理解する必要もないと思います。作者は読者を自身のコピーとして洗脳したり、自らと同じヘッドスペースを持たせようしているわけではないですからね。受け取り方は千差万別でいいと思います。


 もちろん、作品や作風によっては、最後まで専門用語の正体が明かされないものも存在します。いわゆる「奇作」と呼ばれるタイプですね。そういう作品は「そういう楽しみ方をするもの」と受け入れると、面白いのではないでしょうか。「理解できないことを楽しませる」ために、わざとそうしている作品もありますからね。



 専門用語が多い、登場人物が多い――。そうした理由で見逃してしまっている作品がありましたら、いま一度、目を通してみるのも面白いのではないでしょうか。


 もしかすると、心に残るような名作と巡りあえるかもしれません。


 今回は、そんなお話でございました。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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