3. 義姉の貴星
翌日、
翔谷はリストの中では8番候補なのだが、とにかくトップ10にはいっているのだから、仙界のエリートではある。
「はい。喜んで、ご一緒させていただきます」
貴星はあまりうれしい顔はしていなかったが、丁寧に、そう答えた。
竹香は衝立の後ろに隠れて見ながら、貴星のいつもとは違う謙虚な態度に感心していた。
そうなのだ、普通はそういうふうに答えるものなのだ。自分の常識のなさが悔やまれてならない。
「気を使わなくてよい相手。楽が一番よね」
翔谷が帰った後、貴星は妹の顔を見て肩を上げた。その顔には少し不満足の色が見える。
「ご招待があったのに、何か問題でも、あるんですか」
「翔谷は悪くないけど、私よりも背が低いのよね。5センチも」
「背なんかも関係ないです。翔谷さんはやさしくてお兄さんみたい、年中組にも、人気があります」
「そう、そうよね、ここで断って、後に誰も来なかったら、悲劇というものだわ。そんなことになったら、耐えられないもの」
貴星がしかめ面をして、首の後ろをさすった。
「ケンケンに会ったんだけど、チーチーは大丈夫かって聞いていた。あんたが顔に傷をしていたのは知ってだけど、谷底に落ちて、ケンケンが助けたことは、知らなかった」
「はい。助けてもらいました」
「どうして言わないのよ。姉としてお礼を言わなきゃならないのに。妹のことを全然気にかけていないみたいじゃないの」
「お姉さん、わたしのこと、気にかけてくれているんですか」
「いやだ、気がつかない?」
「ないですけど」
「はっきり言う子ね。かわいくない。ほら、ご飯食べなさいとか言ってあげたじゃないの」
「ああ、それは言っていましたけど」
「で、申し込まれたの?」
「それ、何のことですか」
「ケンケンから、晩餐会に」
「いいえ、まさか」
「そうよね、まさかよね」
「まさかです」
ははは、と竹香は笑ってみせた。泣きたいのに。
「ところで、キャプテンのお招きを断ったすごい女子がいるらしいの。考えられる?」
「そんなこと、どうしてわかったんですか」
「ここをどこだと思っているの?仙師の里よ。木にも風にも、目があり、耳がある。彼のお招きを振る女子は誰だったんだろうって、みんな噂をしている」
「そうなんですか」
「その子、どれだけ、高慢ちきなのかっていう話。いるのよねぇ、そういう子。駆け引きをしているのかもしれない」
「そうではなくて、その子、ただ、こわかっただけかもしれません」
「あんたみたいな子供に、何がわかるの?」
「それは、……」
「部屋を片付けておいて。今日から、踊りの先生が来るんだから」
「踊りの先生ですか?」
「そう。習うことにしたの。パレードでは、うまく踊らなくっちゃ。私、うまくないからね、あんたのようには」
竹香は踊りが得意なのだ。
学校では仙術がうまくできないから、仙術の成績は1がつけられるところだが、踊りが誰よりもうまいので5、それで通知表の「運動の成績」には平均の3と書かれている。
竹香は踊るのが大好きなのである。
他の子とはどこか違う、なにかしなやかな踊り方をすると言われていた。年少組の頃は、いつでも、どこでも、踊っていた。一度学芸会で主役に抜擢されて、天女を踊ったことがあり、総仙督から褒められて、ご褒美に絹の団扇をもらった。総仙督とは、国で言えば首相のような存在である。
総仙督から贈られた団扇には桃の花が刺繍されていて、貴星は羨ましがって泣いた。
その時、義母の貴花が「血統だから、仕方がないの。うまく踊れなくて当然なのよ」
と言って娘の肩を抱いた。
竹香の実母が、踊りがうまい芸妓だったということをほのめかしているのだ。
それ以来、竹香は人前では踊ってはいない。でも、踊りは大好きだから、無性に踊りたい時がある。そんな時は林の秘密の場所に行って、ひとりで踊っている。
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