婚約破棄されたら幼馴染と婚約することになった〜えっ、お前わたしが初恋相手だったの!?〜

いももち

婚約破棄されちった

 わたしの実家であるメレッド家は一応伯爵家であるが、そこまでお金持ちでもなければ権力もそんなに無い。

 建国時代から続いているらしいので、他の数ある貴族の家の中でも王家に次ぐ歴史を持つけれど、それだけ。

 それ以外には特にこれといって自慢できるものは無く、暮らしは庶民よりは良い生活してるけど、権力闘争からも程遠い位置にいるような家だ。



 でもまあ、貴族というのは格とか歴史とかに重きを置くもの。

 そこそこ長いこと続く家ならば、まあそれなりの繋がりはある。活用できるかどうかは別として。

 上の姉二人はそれなりの繋がりを上手く使って、まあまあ良い家に嫁ぐことができた。この時にはまだ我が家には支度金を用意できるだけの余裕と蓄えがあったし。

 四年連続で襲ってきた天災に対する諸々の費用で、その余裕と蓄えは底をついてしまったけれど。



 領民に死者が出なかっただけ良いけどね。

 貴族にとって領地に住んでくれる人々はとても大切だ。

 彼等があるからこそ、わたしたちは貴族として生きていくことができているのだし。



 だからまあ、父もわたしも弟も領民たちのためにほぼ全ての財産を使ったことに後悔はしていない。

 けどまあ、わたしの嫁入りのための支度金も七つ下の弟のための学費も無くなってしまったのは、かなり……いやめちゃくちゃ痛手だったけど。



 というわけで、ちょっとこれはやばいねってことで今は亡き母の妹であるマリー叔母さんに頼み、王都で結構大きな店を持つ商人の息子とのご縁を結んでもらった。

 相手方は貴族との繋がりが欲しい。わたしたちはお金が欲しい。利益が一致したための完全な政略結婚。

 当然ながら愛情とか友情とかそんなの知らない子ですね。



 でも、貴族の結婚なんぞそんなもの。

 愛情とか温かい家庭とかそんなんは頑張って後から作るものとは、父と政略結婚してあったかい家庭をしっかり築き上げた母の談。

 ……いやまあ、どう頑張ってもダメな例もあるけど。というか、貴族の大多数がそうだけど。うちの両親が珍しい例だっただけで。

 いや一族がか? 政略結婚しても普通に家族としての愛情を育む……は無理でも、最低限信背中を預けて戦える程度の信頼関係は築いていたという。曾祖父母とか。



 そんな一族の一員とはいえ上手くいかない時はうまくいかないもんでして。

 政略結婚だから婚約者に対して恋だの愛だの、そんなもんはもちろんありはしなかったけど、背中を預けられる程度の信頼は作りたいなーなんて思ってた。わたしの方は。

 しかし相手の方もそうだとは限らない。恋も愛も育むことなく結ばれた婚約に、めっちゃ不満だらけだったのだ。



 だからまあ、こうなったのはしょうがなかったというか、なるべくしてなったのかもと思った。



「悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」



 結婚まであと半年となったある日。婚約者であるカイネスに彼行きつけの喫茶店に呼び出され、前置きも無くそう言われた。

 彼の隣には胸元が大胆に開いたドレスを着た金髪の女性がいて、見せつけるかのようにカイネスと腕を組んでいる。んー、クソ。



 女性のことは何度かカイネスの父、バトラーさんの店に行った時に見かけたことがある。

 あの店を贔屓にしている男爵家のご令嬢だ。かなり派手目の容姿だったから、記憶に残っていた。



 そんな彼女はカイネスの好みドンピシャ。華のある容姿と、たわわなお胸様が大変魅力的な女性だ。

 たぶんきっと湯船に浸かったら浮かぶよあれ。学生時代のナイスバディな女友達のたわわなお胸様も、一緒にお風呂に入った時に見たら浮かんでたし。



「ごめんなさいね、イリスさん。でも彼は貴女よりあたくしを愛してくれたの」

「そうだ。俺はキャシーと出会って本当の愛を知ったんだ」

「まあ、カイネスったら!」



 お胸様を観察していたら、なんか勝手に二人が盛り上がってた。

 そんでもって、あっついキッスを交わし始めた。人の目があるような場所で。曲がりなりにも婚約者であるわたしの前で平然と。

 うーん、この手慣れた感じ。薄々そんな気はしてたけど、やっぱりかなり前からそういう関係だったんだなカイネス。



 別段ショックは無い。

 だって別に異性として、婚約者として、カイネスのことを好きではなかったから。

 あと婚約者である女性のことを地味だの、好みの容姿じゃないだの、家柄以外取り柄の無い女を貰ってやったんだから感謝しろだの、そんなことを言ってくるような輩に持てる好感度は皆無。

 わたしだって、お前のような男は好みから外れまくってるよ。クソが。



 ……うん。これは縋るだけ無駄だな。

 むしろこんな奴に縋るのは嫌だ。

 それに婚約破棄しないでくれって言ったら、確実に二人揃って勝ち誇ったような顔をするだろう。

 んなことされたら、そこそこお綺麗な奴の顔をぶん殴る自信しかない。想像しただけでものすごく腹立たしいもの。



「……はぁ。うん。婚約破棄したいってことは分かった。父さんに伝えとくね。バトラーさんにはカイネスから伝えてよ。あと婚約破棄したいって言い出したのはそっちなんだから、結婚式が無くなったことの連絡とか新居の解約とか契約変更とか面倒なことは全部そっちがしてね。違約金とかもそっちで払っといてね」

「……え? あ、ああ、分かった」

「また今度書類持って婚約破棄の手続きしに来るから。それじゃ、二人が末永く爆発するように祝っとくよ。あと慰謝料もきちんと請求させてもらうからよろしく」

「あ、ありがとう……え、爆発? 慰謝料?」



 なんかちょっと困惑している様子の二人を置いてさっさと部屋を出て、店を後にする。

 そして、憎たらしいほどに晴れ渡った空を見上げてポツリと呟いた。



「父さんとルークになんて言おう……」



 大事な大事な資金源を逃してしまったことをどう伝えるべきかと悩んだ。

 いやまあ、婚約破棄しないっていう選択肢は無かったけど。

 だって相手浮気男だし。浮気女と一緒に見下して笑ってくるような最低クソ野郎だし。



 ……こうなったら、婚約破棄された傷物相手でも娶ってくれるような、どっかの物好き独り身貴族な金持ちお爺ちゃん探すかぁ。

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