月日は流れ......
あれからティアリーは私の周辺での攻略対象(男)探しは諦め、学校では相変わらず女子高生のノリではあるものの少しずつ淑女としてのマナーなども身に付け、当初は進級も怪しかったそうだが無事に二学年へと進むことが出来た。
ビクトリアにも婚約者が出来、その方がとても優しくていい人のようで
「ザイラス様が......」
なんて頬を染めながら惚気話をしてくることが増えてきている。
ビクトリアの婚約者はザイラス・モンタクルズという侯爵家の次男なのだが、実はこの人、王子が一番信頼を置いている人物で、モンタクルズ侯爵家を継ぐことはないが新たに爵位を賜ることが決定しており、超有望株なのだ。
王子は私が自分の側近達と会うことを嫌がってきたため、チラッと一緒にいる姿を見たことしかなかったのだが、甘いマスクのキラキラ王子とは違うタイプのイケメンである。
絶対サラサラだろうなという薄茶色の髪を後ろで束ね、王子よりも高身長で、キツめの顔をしているビクトリアと並んでも違和感のない、目元が涼し気なクール系。
「あいつはいつも難しい顔をしている」
王子からはそう聞いていたのだが、ビクトリアの前では笑顔を見せ、以前は仕事の虫だと言われていたそうだが婚約してからは適度に休みを取るようになり、その度にビクトリアとあちこちデートをしているそうで
「人は変われば変わるものだな」
なんて王子が驚いているほどの変化を見せているらしい。
「恋をされているのですわね、ビクトリアさんは」
取り巻き達にほのぼのとした空気感でそんなことを言われたビクトリアは顔を真っ赤にして否定していたが、婚約者の一挙手一投足で一喜一憂する様は絵に描いたような恋する乙女。
私はというと相変わらず王子には心臓が痛くなるほどドキドキさせられる日が増えているが、これが恋なのかよく分からない。
「嫌いじゃない、嫌じゃないならそういうことですわよ」
ビクトリアにはそう言われたが、自分で思い描いていた恋心というものとは何か違う気がして自分の感情に名前をつけられないでいる。
相変わらず長期休暇に入ると妃教育を受けているが、私の知らないところで教師陣から「素晴らしい」と太鼓判を押されているようで、授業の進展具合が芳しくないなどで嫌味を言われることも一切なく、実に満たされない日々を過ごしている。
ティアリーはというと、二学年に進学してから「社会見学の一環」と言い張って、週に一度だけ子爵家が営んでいる商会でアルバイト的なことをさせてもらうようになったようで
「聞いて! 商会に私のパラダイスがあった!」
と目をギラギラさせて言われた。
「顔で選んでる?! って思うくらいイケメン率高いのなんの! しかも全員、仕事が忙しくて出会いがないとかで彼女も婚約者もなし! めっちゃ良くない?!」
「それは良かったですね」
「その中でもさー、リチャードがめっちゃタイプなんだー」
リチャードがどこの誰だかは知らないのだが、商会の荷物の管理を任されている年上男性らしい。
「日焼けした肌に仕事で鍛えられたガッチリしためっちゃいい体。笑うと光る白い歯。ちょっと癖のある髪が天然物の無造作ヘアを生み出してるし、女慣れしてないみたいでちょっと赤くなったりして可愛いし、ヤバくない?!」
ティアリーの好みはある程度マッチョな男性なのはよく分かったが、ヤバくないかと聞かれてもどこがヤバいのか分からない。
「でもねー、アインツも捨て難いんだよね」
「お一人に絞った方がいいと思いますよ?」
「そうなんだよ、そうなんだけどさー。乙女ゲームって裏モードとかで逆ハーも存在したりしたわけで」
ゲームや小説の架空の世界でなら逆ハーだろうが何だろうが何でもありだと思うが、実際にそれをやってしまったらアウトである。
「浮気はよくないかと」
「浮気?! あー、そっか、浮気に入るかー」
「本当にお好きになった方を選ぶべきかと」
「そうだよねー。尻軽ヒロインとか良くないもんねー。でもなー、どっちもいい体してるし、めっちゃ好みなんだよなー」
ヒロイン設定は相変わらずだが、ティアリーにも春が訪れる日はそう遠くなさそうである。
いじめられることのない日々を送っている私はこの生活にすっかり慣れ、もういじめなんて期待しない体になったんだと言えればいいのだがそんなことは一切なく、心はいじめを渇望している。
もうカラッカラである。
一度味わったあの快感をもう一度! と心が常に叫んでいるのだが、私の周囲には一人としていじめっ子が存在していないため新入生に期待をしたのだが、そもそも下級生とは接点がないためそんな人物が現れるはずもなく、実に乾燥し、干上がりすぎてそのうちミイラになるのではないかと思うほど性癖の満足度は乾ききっている。
この状況を「これがお預けを食らうってことなのね!」というところまで昇華出来れば本物と言えるのだろうが、まだ修行が足りないためそこまで至れない。
「いじめて欲しい......」
独り言は誰にも拾われることはなく、虚しく宙に消えていくだけ。
そうそう、言い忘れるところだったのだが、我が家に新しい家族が増える。
ローリアが妊娠したのだ。
妊娠を告げられた時の父とローリアの何とも恥ずかしそうな顔は忘れられない。
「おめでとうございます! 弟がいいですわね!」
私は純粋にそう思って発言したのだが、ローリアは申し訳なさそうな顔を見せた。
「こんなことになってしまってごめんなさい」
「謝ることなんて何もありません。私は本当に嬉しいですよ?」
そう言うと少しホッとした顔をしたのだが、ベネットが泣き出したためそんな空気は消えてしまって大変だった。
「お姉様と二人だけの姉妹でしたのにぃぃ」
でも泣いた理由が単に私と二人姉妹ではなくなるという意味の分からないことだったため最後は笑いが起きていた。
「お母様! 絶対に男の子を産んでくださいね! 女の子は駄目です、絶対に! お姉様の妹は私だけで十分なのですから!」
何のこだわりなのか分からないが、その後は毎日のようにローリアにそう言い続けているベネット。
時折お腹に向けてまで
「あなたは絶対男の子! 男の子ですからね? ちゃんと男の子として生まれてきなさいよ!」
なんて言っているため少々怖い。
「ベネットはきっとあなたを取られるのではないかと不安なのね」
少し膨らんできたお腹に手を当てながらそう微笑んだローリアは本物の聖母か女神のように美しかった。
「新しく妹が生まれてきたとしてと、ベネットが私の妹であることは変わらないわよ?」
「......分かっています、でも嫌なんです!」
なぜここまで好かれてしまったのか分からないのだが、姉妹仲も至って良好。
───平和すぎるのよ!!
今日も今日とて私の心は泣き叫んでいる。
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