そして、退場?
「友達を追い出すなんて酷い! 悪役令嬢だからって酷すぎる!」
休み明けで学校に着くなりティアリーが私のところにやってきてそう叫んだ。
クラス中の注目を浴びているが本人は気にしている様子はない。
「どうかされたの?」
ビクトリアが近付いてきて声をかけてきた。
「聞いて、ビクトリア! アリアって酷いの! 遊びに行ったのに私を追い返したの! 王子と約束があるって! そりゃ、急に行った私も悪いけど、追い返すとかありえなくない?! 友達だったら王子を紹介してくれてもよくない?!」
鼻息も荒くそう言ったティアリーだったが、ビクトリアは呆れた顔をしている。
「ティアリーさん、失礼なのはあなたの方ですわ」
「え?」
味方をしてくれると思っていたのか、ビクトリアがそう言うとティアリーはポカンとした表情を浮かべた。
「わたくし達は家のために様々な人と接する機会がたくさんありますわ。家に来るお客様もそうですし、社交のために人と会うこともございます。ですからどんなに親しくとも緊急を要する時以外は必ず相手の予定を伺って会いに行く、それが礼儀というもの。違いまして?」
「で、でも友達だし」
「親しき仲にも礼儀あり、という言葉がございますわ。どんなに仲がよくとも、相手のことを考えずに行動するのは思いやりに欠けた行動ではございません? 相手を思いやり、親しくとも礼儀を尽くす、それが本当の友達なのではなくて? 」
「な、何よ! 私が悪者?!」
「今回のことに関しては、少なくともティアリーさんが悪いと思いますわ」
「でも、アリアは私を追い返したんだよ?! 友達にする仕打ちじゃないでしょ! 後日招待しますとか気取っちゃってさ!」
決して気取ってそんなことを言ったのではないのだが、ティアリーにはそう見えていたのかと思うと何とも言えない気持ちになる。
「そんなつもりはなかったのだけれど......ごめんなさい」
嫌な態度に見えていたのなら謝るべきだろうと思いとりあえず謝罪をした。
「ほら、アリアだって自分が悪いことしたって思ってるじゃん! 私、悪くないって! 悪いのはアリア! 私に意地悪して王子と出会わないようにしてるアリアが悪いの!」
「ティアリーさん、ずっと疑問だったのですけれど、あなたは何を仰っているのかしら?」
「は? 正論言ってますけど?」
───これまでのどこに正論があっただろうか?
「殿下を紹介してくれない、殿下と出会わないようにしていると仰ってましたけれど、それを本気で口にしているのかしら?」
「だってそうだし! ちゃんと紹介もしてくれなかったし、せっかく王子に少し会えたのに追い返されてまともに話も出来なかったし!」
ビクトリアが大きなため息を吐いた。
「私がヒロインなのに、僕のヒロインはアリアだけだとか言われるし! 全部全部私の邪魔するアリアのせいじゃん!」
「仰ってる意味が分かりかねますわね......」
周囲にもティアリーの言い分は聞こえているようでかなりザワザワしている。
「ヒロインとは主人公という意味ですわよね? まぁ、あなたの人生の主人公はティアリーさん自身ですから当然ヒロインなのでしょうけれど、アリアさんの人生はアリアさんだけのものですから、アリアさんの人生のヒロインはアリアさん自身ということになりますわよね?」
「な、何? 難しい話?」
「ティアリーさんにはティアリーさんの、アリアさんにはアリアさんの人生があり、それぞれが自身の人生の主人公ではありませんの?」
「そうだけど、そうじゃなくて! この世界は私がヒロインの世界で私のための世界なの!」
「ではわたくし達は? わたくし達は何ですの? わたくし達もこの世界で生きておりますわよ? あなただけが主人公の世界なら、わたくし達は何だと仰るの?」
「それは、その、モブって言うか、NPCって言うか......」
私も最初は灰かぶりのアリアの世界に転生したと分かった時、自分以外はNPCなのではないかと考えたこともあった。
もし強制力などが働いてしまう世界だったら今でもそう思っていたかもしれない。
でもそんなものはなく、みながそれぞれにちゃんと生きている。
世界設定は確かにアリアの世界だろうが、そこで生きている人達はそれぞれの人生を歩んでいるし、私と関わりのない人達もたくさん生きて暮らしている。
そこにヒロインやモブなんてものは存在せず、前世の自分達と同じように意志を持ち、日々を懸命に生きているのだ。
「本当に仰る意味が分からないのですが、ティアリーさんは殿下とお会いし話をすることがとても難しいということは理解されてますの? アリアさんは婚約者ですから会うことも話すことも出来ますが、本来は簡単に会うことも話をすることも出来ない存在なのが王族というものですわ。不敬を働けば首が飛ぶことも、家が断絶することもあるということを理解した上でそんなことを仰っているのかしら?」
「く、首が飛ぶ?!」
「えぇ、飛びますわね、簡単に」
昔から王族や高位貴族に不敬を働いて処刑された人達はある程度の数がいると聞いている。
王子は比較的穏やかな人だし、ティアリーに腹を立てていなかったから良かったが、あれが城で起きていたら大問題になっていた可能性もある。
そもそも本来であれば許可が下りなければ会話を交わすことすら許されないのが王族なのだ。
乙女ゲームの世界ではみなが平等であるという学園を舞台とした特殊な設定の中だからヒロインが馴れ馴れしくしても問題にならない(僻み妬みの対象にはなるが)だけで、本来であれば「頭を上げろ」と言われない限り顔すら見ることが叶わないような存在。
「マジで言ってる?」
「マジで、というのが何か分かりませんが、首が飛ぶ可能性があるのは事実ですわ」
ティアリーの顔色が明らかに変わった。
「無理無理、そんなの無理! 死ぬかもしれないなんて無理! 王子ってそんな怖い存在なの?! 思ってたのと全然違うじゃん!」
青い顔でこちらに近付いてきたティアリーは私の手を握って
「アリア、あんた、死と隣り合わせで生きてきたんだね! いつ殺されるか分かんない中で婚約者にまでなったなんて凄すぎる! 私には無理!」
と言ってきた。
───そんな危険な状況で生きてきた覚えはない。
「そんなこともありませんけど......」
「王子ってキラキラしてて、颯爽とピンチに現れて窮地から救ってくれて、お金持ちで、イケメンで、幸せだけ運んできてくれるんだと思ってたけど、そうじゃなかったんだ。アリア、あんた凄すぎ! 王子とのイチャラの座はあんたにあげる! 私は無理! 死にたくない!」
ビクトリアがこちらを見てチロッと舌を出したのが見えた。
わざと怖い言葉を言って脅したのだろうがティアリーは気付いていない。
「私、別な攻略対象者を探す! 王子はアリアにあげる!」
───そもそも誰のものでもないけどな!
こうしてティアリーは王子を諦めたようだったが、相変わらず毎日馬車には乗り込んでくる。
「ねぇ? どっかにイケメンばっかいる場所ないかな?」
「さ、さぁ......」
「私の攻略対象者達はどこにいるんだろ?」
王子からは退場してくれたが、まだヒロインだと思ってはいるようである。
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