私が悪役令嬢?!

「アリアが王子の婚約者ってことは……え? ちょっと待って」


 この子はあまり物を考えない方がいいタイプのように思う。


 また何やら変なことを考え始めているのか、私の顔を見ながら難しい顔をしだした。


「王子の婚約者は悪役令嬢ってのがお決まりのパターンだよね? で、アリアは王子の婚約者……ってことはこんな可愛い顔してるのに悪役令嬢?!」


 確かに乙女ゲームや小説では王子や主要キャラの婚約者が悪役令嬢として君臨しているのがパターン化していたが、私はいじめられたい側であって人をいじめる気なんて全くない。


 土下座されて頼まれたっていじめなんてしない、絶対。


「何のことですか?」


 すっとぼけてそう尋ねると、ティアリーは「な、なんでもなーい」と言いながらもブツブツと独り言を呟き始め、それは全て聞こえている。


 ビクトリアもティアリーの言葉が聞こえているようで途中から変な顔をし始めたが、本人は自分だけの世界に入り込んでいるため全く気付いていない。


「王子の婚約者である悪役令嬢はいるけど王子はいない……ん? これって展開的にはどうなるんだ? アリアの近くにいたら王子とお近付きになれるってこと? え? でもそもそもイベントとかも今の状況だと起きなくない?! 私、いじめられるだけってこと?!」


 一人で百面相のように表情をコロコロ変えながら独り言をやめないティアリー。


「アリアさん、ティアリーさんはどうなさったのかしら? 独り言の内容が少々物騒ではないかしら?」


「想像力豊かな方なのでしょうね」


 そう言う以外何と言えばいいのか分からない。


「アリア! 王子様ってアリアを迎えに来たりするの?」


「いえ、そういったことはありませんけど」


「そうなのか……じゃ、どこで出会うの?! え? 出会わずして恋愛が発展する新パターン?!」


 出会ってもいないのにどうやって恋愛が発展するというのだろうか?


 認識もしていない相手に恋焦がれるなんてどう考えても異様である。そんな恋愛ゲームや小説を誰が望むというのだろうか?


「王子様ってこの学校に来ることはあるの?」


「ありませんね」


「来ないかー……」


 何やら考え込み始めてしまったティアリーだったが、授業開始のベルが鳴ったため席に戻っていった。


「お昼一緒に食べよ!」


 ランチの時間になるとティアリーは私を普通に呼びに来た。


「ビクトリアさん達といつも一緒なのですが、よろしいですか?」


「いいよいいよー、大勢で食べた方が楽しいしねー。あ、ビクトリア! 私もお昼一緒にいいよね?」


「え、えぇ、よろしいですけれど」


 さすがのビクトリアもティアリーの勢いには少々押され気味で若干引いているように感じる。


「あ、この席いいじゃん!」


 食堂に到着するなり、ビクトリアのお気に入りの席を陣取ってしまったティアリー。


「そこはビクトリアさんのお気に入り……」


「いいのですわ、今日くらいは」


 ビクトリアはティアリーの隣の席に腰掛け、いつものメンバーにティアリーを加えたメンツでランチタイムはスタートした。


「うわ! ランチでこのクオリティ?! ヤバい! 高級レストランじゃん!」


 いちいち騒がしいティアリーは日替わりのランチを見て興奮しているのだが、正直言って少々はしたない。


「ティアリーさん? 声のボリュームを少々落としてお話しませんか? 注目を浴びていらしてよ?」


 ビクトリアがやんわりと注意したのだが人の話を聞かないティアリーは相変わらず大声を出している。


「冷めてしまいますから、いただきましょうか?」


 諦めたビクトリアがそう言ったため、みなで食べ始めたのだが、食器の音がカチャカチャと耳障りな上、口に物が入ったまま喋ることをやめないティアリーのせいで食欲が減退している。


 まだ貴族としてのマナーが身についていないのは仕方がないが、最低限として口に物が入っている状態では話をしないで欲しいと思う。


「てか、本当に男子が一人もいないんだね! 女子校とか今どきあり?」


 この世界は共学の学校の方が珍しい。


 他国にならあるそうだが、この国では基本的に男女は学ぶことが違うとされているため共学の学校は存在していない。


「ねぇ? みんなって出会いとかどうなってるの?」


「親が決めた婚約者と添い遂げることがほとんどですわね」


「はぁ?! そんなのつまんなくない?!」


「つまらないと言われましても……ねぇ?」


 前世では自由恋愛がほとんどだったが、この世界はなんちゃってヨーロッパのような貴族社会であり、まだまだ恋愛結婚など平民以外ではありえない。


 家同士の結び付きや、お互いの利益のために結婚するのが当たり前であり、特に貴族子女はそれが当然であると教育を受ける。


 我が家のように「嫁には行かなくていい!」と親が言う家は珍しいのだ。


「つまんない世界で生きてるんだねー。でも私はヒロインだからそんなこと関係ないんだけど! やっぱヒロインは特別じゃん?」


 誰に言うともなくそう言ったティアリーを、みんなが不思議なものを見るような目で見ていたのだが、ティアリーは全く気付いていなかった。


「アリア!」


 放課後、馬車で帰ろうとしていた私を呼び止めたティアリーは、方向が違うというのに我が家の馬車に乗り込んできた。


「送ってってよ!」


「馬車がないのですか?」


「ほら、うちって子爵家じゃん? 馬車一台しかないらしくてさ、朝以外は馬車来ないんだって」


 仕方がないので送っていくことにしたのだが、馬車の中でずっと盛大な独り言を聞かされ続けた。


「アリアが悪役令嬢確定だから、こうやって一緒にいたら王子とのイベントも確定で起きるよね? 私って頭いい!」


「イベント?」


「あぁ、こっちの話だから気にしなくていい! しっかし、こんな可愛い顔してて悪役令嬢とか、アリアって見かけによらず腹黒キャラなのかー」


 腹黒という点においては否定はしないが、私は悪役令嬢ではない。


「こういう清楚っぽい顔してて陰で卑劣ないじめとかしちゃうんでしょ? 見かけに騙されるとかヤバくない?!」


 卑劣にいじめられたいが、いじめはしない、絶対に。


「ビクトリアが悪役令嬢だと思ったけど、まさかのアリアだったとはねー。まぁ、私より弱そうだから簡単にいじめられるつもりはないけどさー」


 本当に独り言が大きすぎる。


「この世界ってどのゲームの世界なんだろうなー? 私、乙女ゲームは結構やったと思ってたけど、どう考えても分かんないんだよねー……攻略対象者に会えば分かっちゃったりするパターンだよね、これ絶対」


──この世界が「灰かむりのアリア」という小説の世界だと教えたらどんな反応をするんだろう……教えないけど。


 ティアリーは子爵家に到着するまで盛大なる独り言を言い続け、聞いているだけで非常に疲れてしまった。

 


 

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