第2話 女の体

リヒトは今世の記憶を振り返る。前世の記憶をを取り戻しても、今世でのリヒトとしての記憶は一応無くならないようだ。曖昧ではあるが。


リヒト。姓はない。赤ん坊の時にこの王都から少し離れたスラム街に捨てられていたところを、通行人が拾い、その後リヒトを哀れんだスラムの女性が交代に面倒を見たが、引き取る者はいなかった。


「あんた、今日店番立ってくれない?」

「今日はこっちで子守りしてくれないかい?」


あちこちの女性から声がかかる。


「ごめんまたあとで!」


俺は街の人々の手伝いを断り、その辺にあった鉄板を日当たりのいい場所に置いた。


「熱っ…」


すぐに鉄板は焼石のように熱くなった。そこに集めてきた芋虫を並べると、ジュッという音を出して動かなくなった。


「太っててうまそうだな」


…この世界では必要ないことだとわかっているが、癖で食料を集めてしまう。実は衛生的でない場所では獣より虫の方が安全だ。慣れてしまった俺にとっては芋虫はご馳走だった。


……記憶がない間、こんなスラム街でよく俺は生きていけたな。

12才というのは推定。動けるようになってからは、拾った宝石を売ったり、靴を磨いたり、運び屋をやったり…法のギリギリのようなことも、12才という若さで行っていたようだ。


そんな生活だから、親はいないものの自分を心配した街の人がこうやって手伝いをさせては給料として飯や金をくれている。


スラム街だから学校に行かせたり、贅沢をさせる余裕はないようだが、こうやって助けてくれる。自分の生活に余裕がないのにも関わらず、温かい人たちだ。


しかし、12歳か。俺が前世でモブとしての意識を持ったのは、確か4、5歳の頃だった。


まあスラム街で育って、教育を受ける暇もなかっただろうから、発育が遅れたのだろう。


つまりリヒトは今、本当の意味で「物心がついた」のだと言える。


というか、今まで生存本能だけで生きてきたのか。さすが俺だ。


それにしても俺が女か…リヒトは男性名だし、この薄汚れた姿じゃ少年にしか見えないな。

日焼けした褐色と細い腕に、少年のように短く切られた無造作な青い髪。これを見て一目で女とわかる人はいないだろう。

栄養状態も悪いし…もしかして、二次成長もきてないんじゃないか。そっと自分の胸に手を伸ばす。


ふにっ


「…!!」

確かに女だった。決して大きくないがこの細さにしては「ある」ほうだ。


胸をそっとなでると……なんだか変な気分になってきた。前世の男の姿では色々と経験したが、女の快感はまた違うものらしい。そっと指先で服の上からなぞると、痒みのような快感が全身に広がり、顔がカッと熱くなった。


「…ふぅ、…っひぁっ」


高い声が漏れ、思わず目をギュッと瞑る。

思わず膝を擦り合わせ、恐る恐る目を開けると…


「っ、うわぁぁ!」


パン屋のおばさんが真顔で立っていた。


「…あんたも年頃ねぇ…外ではやめなさいよ」

「わ、わかったよ…!」


おばさんはため息をついた。


「ちゃんと学校に行かせてあげられなくてすまないねぇ…」

「…いや、そういうんじゃ」


くそ、完全に痴女扱いされてしまった。サバイバル世界で生きてきた俺がこんなことに…

女の体は恐ろしい…

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