第11話 穏やかな時間
メアリーさんの宿屋でシーラちゃんと遊んだ後、僕とナルセーナは様々なお店に行き素材を売り払った。
「すっかり暗くなっちゃいましたね」
「そうだね。話し込んじゃったからなあ……」
その結果、僕とナルセーナが宿屋に戻ろうとするときには日が沈み、すっかり辺りはは暗くなっていた。
僕たちはお店側の行為で面倒な手続きを省略してもらっている。
だからといって10件近くのお店に換金の素材を持ち込み、話していたらその分時間がかかるのは当然だ。
「うん、今日も皆喜んでくれていたなあ……」
「はい!お兄さんはもうすっかり人気者ですね」
「あはは。ありがと」
けれども、通常の冒険者なら嫌うようなその手間も決して僕は嫌いではなかった。
店の人にお礼を言われて、余分におまけしてもらって、メアリーさんと話して、シーラちゃんと遊んで。
そんな僕の行動をこの街の冒険者が見たら冒険者らしくない、なんて僕のことを嘲るかもしれない。
でも、そんな風に嘲られても気にならなくなってしまう程、街で過ごす日々は僕にとっては新鮮で楽しいものだった。
街で僕が受け入れてもらえるようになった理由も、恐らく彼女の人格が大きいだろう。
何せ僕が肉屋に肉を売りに行っていた頃ではここまで受け入れてなんて貰ってなかったのだから。
彼女がいなければ僕は今も冒険者ギルドの隅で、自分のことを役立たずだと思い込みながら過ごしていただろう。
その光景を僕は容易に想像できてしまうのだ。
それにナルセーナのお陰で変わったことはそれだけではない。
「そういえばお兄さんは今日、なんか魔獣に向かって火の玉をだしてましたよね。あれ魔道具なんですか?」
「いや、あれは魔法だけど」
「へえ、そうなんですか……って、魔法!?」
「うん、なかなか使えるでしょ」
そうナルセーナと話すとき、僕は一番自分の変化を自覚することになるのだ。
魔力の扱いをスキル抜きにして知覚する、それは超一流と呼ばれた師匠から習った技術だ。
数ヶ月師匠からその技術を手ほどきされ、僕は数年で自分のものにした。
それはかなりのハイペースだっただろう。
「まあ、牽制しか使えない程度の初級魔法しか使えないんだけどね」
けれども、すぐに僕は自分がただの器用貧乏でしかなかったことに気付かされた。
貧乏で、その日の食事にも事欠く生活の中僕は必死で魔法の練習をした。
無能だと、欠陥だとそう言われ続けた自分を変えるために。
その結果得たのは、ただ攻撃にも使えない程度の初級魔法。
だから、僕にとってこの魔法はトラウマ以外の何もでもない。
でもナルセーナにその魔法を話す時、僕が何かトラウマのようなものを抱くことは一切なかった。
「初級だけでも充分凄すぎるじゃないですか!お兄さんて魔法強化のスキルなかったのに何でそんなもの使えるんですか!」
ーーー 何せ、そんな僕のどうしようもない能力でも、ナルセーナは認めてくれるのだから。
そのナルセーナのオーバー気味とも言える反応に僕は笑ってしまいそうになる。
ナルセーナは気づいてないんだろう。
本当に凄いのはただ多少、使えるだけの僕なんかの存在ではない。ことを。
本当に凄いのは、誰かに話したところでただ嘲られるだけだったこんな能力でも、その努力を認めてくれるナルセーナなのだから。
「師匠に教えてもらってね」
「お兄さんの師匠って本当に何者なんですか……どうしたら治癒師に魔法を教えられるんですか……」
「そのうち会えるじゃない?多分」
「ええ……適当なこと言って……」
ナルセーナと談笑しながら、僕は何度目になるかもわからない感謝を心の中でナルセーナに抱く。
彼女がこれからどうするつもりなのかは僕にはわからない。
たしかに僕はようやく自分がある程度有能であることは理解できるようになってきた。
だけど、僕が極端な冒険者であることはたしかでいつかナルセーナは僕とは別な、もっと優秀な冒険者と組むことになるかもしれない。
それでも、彼女が危険な状況になることがあれば、僕は絶対に助けに行くだろう。
そんな覚悟を僕は密かに決めながら、表面上はそんなそぶりを見せることなく笑いかける。
「そんなことはないよ。確証はないけど本当にいつかナルセーナは師匠に会いそうな気がするだよ。もしかしたらもうあってたりするかもしれないよ」
「やっぱり適当じゃないですか!もう!」
僕の言葉にナルセーナは膨れっ面で文句を言う。
それに僕は悪いと思いながらも思わず笑ってしまう。
そんな僕にナルセーナは不満を表すようにそっぽを向いてしまう。
「……本当に、あの子を思い出すな」
そんな感情豊かなナルセーナの姿に気づけば僕はそんな言葉を漏らしていた。
ナルセーナの姿を見るたびに僕はある少女の姿と重ねてしまう。
それは感情豊かで、優しく、そしてとても強かった少女。
ーーー そして彼女は僕が防御と攻撃を分けるという歪な戦いかたをしてまでも力を手にいれようと思う原因になった少女だった。
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