鍵師の子どもは父が好き~オレの子どもたちが持ってくる仕事が厄介すぎる!~

ちさここはる

第零章 女神カップ=ヌゥダールの戯れ異世界転移試験体の少年の悲劇

第1話 道民、神様の試し召喚で異世界転移に遭う。

 よく言うところのアレですよ。神様の悪戯、いや、戯れって言うべきなのか。それに十四歳の子どもだったオレは遭ってしまったんだ。


 オレを呼んだ奴の名前はカッ◯ヌード〇ってんだよ! 美味しそうな名前の女神はオレに開口一番、何を言ったと思うよ。


「『異世界転移というのは、こうも簡単なのか』だって? マジで、ふざけるんじゃないよ。〇ップヌー〇ル!」


 女神はどうやら呼びたい奴がいたようだ。その腕慣らしのお試し召喚を行って呼ばれましたるは、北海道旭川市在住の十四歳の高校受験を控えた子ども、ときたもんだ!

 

 もちろん、腕試しの遊び感覚で呼んだのなら、今すぐに帰してくれって頼んだが、出来ないなって突っぱねられちまった。なんでも一通の片道切符だとか。


 マジで頭おかしいんじゃないのか、ってなりますよねぇ! 


 呼び出した女神は申し訳ないって態度なんかじゃなかった。何なら、呼ばれたことを光栄に思えって威圧的姿勢でしたよ。


 あり得ないんじゃないですかっ。だから、異世界の長い人生で使える能力を寄越せって言ってやりましたよっ! 女神相手にオレは一歩も引かなかった!


 女神はオレの気迫に負けたのか【三つの異能力】を貰うことが出来た。呼ぶはずの奴に渡す予定だった能力を、オレに横流して頂戴した格好な訳だ。


 どマイナー能力を与えられたオレは、運よく生計を立てることに成功した。身勝手に行われた異世界転移で飛ばされた都市は治安がいいとは言えない、有名な場所だった。


 今に思えば、これはあの女神の意地悪な仕返しだったのかもしれない。


 住めば都というか、顔馴染も増えて何回も引っ越したが、結局、そこで今も人里離れた山の麓に家を建てて暮らしている。


 異世界で辛かったことは飯が不味いってことだな。味つけも何もかも、オレの口には合わない。


 食文化に馴染めずに食欲が半減したんだ。小食になってしまったオレは、当時六十キロあった体重が五十キロにまで落ちてしまった。今も、なんとか食べられるものを食べて体重を維持している。


 生きてさえいれば、いつかは元の世界に帰れる、という気持ちで生活をしているんですよ。気持ちだけが慰めで、がむしゃらに頑張って活きた。


 異世界転移後、生活で二十五歳になった。来た日から数えていて、誕生日を忘れていたオレは遅れて誕生日会を一人でやった。


 場所は馴染みの酒場で、呑んで出来上がった帰り道で、段ボールの中に捨てられた子猫を拾う。


 まではよかったんだが、さらに赤ん坊の声が空き家しかない裏路地で聞こえたもんだから、六つあったゴミ箱の中を一つ一つ、見歩いて確認したがいなかった。


 オレは「いないのか」と安堵の息を吐いて、ふと目にしてしまった。ごみ箱と壁の隙間に、何かを包んだタオルケットが見えてしまう。


 まさかと伺って見れば動いていた。ここでどうするかと数秒、悩んださ。そりゃあ、そうだ。最悪な事態だ。


 子猫だけだったらなんとかなるが、それとは全く違うもの、つまり捨て子だった場合、困ったことにしかならない。


 もしも、ここでオレは気づかなかったと行ってしまったら、タオルケットの中身はどうなる? この裏路地を通る馬鹿なんかオレくらいだろう。


 季節は冬から春とオレが呼ばれた時期で、夜と朝は二月上旬の北海道並みに寒い。死んでしまうのは明らかだ。


 小さな命を無視できるほど、オレは強くはない。相手の立場側にもなる方だからね。


「今日も、貴女への怒りを糧に、仕事が頑張れそうですよ! カ〇〇ヌー〇ル様ぁア!」


 こうしてオレは、二十五歳で人の子の親になった。いや、人じゃない。人の成りをした妖精族の血を引く女の子だった。


 さらに、子猫と思ったのが、獣人と人との間の子どもだったことも、判別の神から聞いて発覚したんだよ、まさかな二児の父親だっ! 


 そのあとは、もう育児が大変としか、途中から記憶がない。


 オレには兄弟もいなかったし、赤ちゃんの世話なんかしたことはなかったんだからな! 


 何度も匙を投げ出したくなったし、施設に入れようとも思ったが、そこは踏み留まりましたとも。


 女神の名義を使用出来たおかげで、神も巻き込んで何とかなった。と、オレは思うんですがね、どうだろうか。


 子どもたちにとって、オレはいい父親だったかな。


 育児に追われながら、仕事も異能力で喰い繋いで生活に困らない、ギリギリ程度に金を確保出来たことが、本当によかった。


 十三年間、オレの育児に協力してくれた神たちにも感謝だ。だが、女神、貴女は赦さないからな! まぁ、そんなこんなで、オレも、三十八歳と立派なおっさんになっちまった訳ですよ。


 十四歳から今までの振り返ってみても、子どもがいなかったら首を吊っていただろうと思うくらいに、異世界転移が合わなかったことに間違いない。

 

「今日も金庫を開ける仕事依頼に感謝してますよ!」


 オレなんかよりも異世界に憧れた子どもなんか沢山いただろうに。

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2024年11月29日 21:00

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