第3話 フッセン 修正版

※この小説は「ドイツを旅して」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しています。もう一度読み直していただければと思います。


トラベル小説


 翌朝8時に、多めの朝食をとる。一人旅は食事が面倒なので、食べられる時にしっかり食べるようにしている。ハムだけで10種類ほどあるので、1枚ずつ取って食べ比べをしていたらお腹いっぱいになった。

 今日は一般道を使ってフッセンに向かう。アルペン街道といわれる牧草地を走る道路だ。左にはアルプスが見える。青い空、白い山の頂、そして緑の草原。素晴らしい色のコントラストだ。クルマが停められるところで、カメラのシャッターをきる。妻はずっとシャッターをきってばかりいた。妻の写真は同じような構図が並び、変化がないのだが100枚に1枚程度で光る作品があり、それを誉めると喜んでいた。

 昼前にはフッセンに入った。といっても町の中心からは外れている。正確にはシュバンガウというところにある。まずは、観光案内所に行って、ノイシュヴァンシュタイン城の入城券を予約した。さすがに当日のチケットはなく、翌日の10時の予約ができた。ホテルはお城からもっとも近いシュロスレストラン・ノイシュヴァンシュタインに予約をとっていた。以前はここに3泊したが、今回は2泊の予定だ。ホテルといっても、レストランの2階の数部屋を泊り客に提供しているいわばペンションである。夕方4時までにチェックインしないといけない。5時にはスタッフが帰ってしまうのだ。夜の出入りのために部屋の鍵だけでなく、建物の鍵も渡される。夕食はふもとまで降りないといけないので、その点は不便なところだ。それで午後3時に遅い昼食をとった。ここのおすすめはホワイトアスパラガスのベーコン巻きだ。かけてあるクリームソースがアスパラガスによく合う。このマッチングは最高だ。妻はドイツ旅行で一番おいしい料理だと言っていた。私もそう思う。付け合わせのポテトでお腹いっぱいにした。

 食べ終わってからお城の周辺を散歩する。500mほど歩くと城門がある。夕方には閉まってしまうので、足を伸ばしてマリエン橋まで歩く。前回は修理中で通行止めだったが、今回やっとマリエン橋からの景色を見ることができた。まさに絵葉書の世界だ。お城の向こうに牧草地が広がる。以前来た時は雪に降られ、牧草地が真っ白になり、クルマの運転に気をつかった覚えがある。

 7時にホテルにもどる。スタッフはもうだれもいない。前回も思ったが、セキュリティは大丈夫なのかと思う。予約した客しか泊めないということだが、皆が善人とは限らないと思うのだが・・、まぁ気にしてもしょうがないので、TVでスポーツ中継を見ながら寝てしまった。

 朝4時に目を覚ました。朝食まで時間があるので、朝の散歩に出る。前回は妻と二人きりの世界だった。絶景を二人占めして

「ぜいたくだね」

 と妻は言っていた。今回は一人占めだが、ぜいたくとは思えなかった。でも、朝陽を浴び始めたノイシュヴァンシュタイン城は輝いて見える。思わずシャッターの回数が増える。

 6時を過ぎると、清掃員の人たちがやってきて、道路やお城の周辺を掃除し始めた。

「 Morgen 」(おはよう)

 とドイツ語で言うと、笑顔であいさつを返してくれる。現地の人と片言でも話せると気持ちがいい。

 7時前にホテルにもどる。朝食は中のレストランでハムとチーズとパンとコーヒー。代り映えのしない朝食だ。でも、昨日は夕食抜きなのでお腹がすいている。ハムは大盛りだった。コーヒーをカフェオレにすると何杯でも飲めそうだ。

 食事を終えて、入城まで時間があるので、またマリエン橋まで足を伸ばした。昨日の夕方の景色とはまた違う。正面に陽が当たり、白いお城が鮮やかな白に見える。これを妻に見せたかった。

 10時に入城。閑散期とはいえ、ここは観光客が絶えない。外国人がたくさんいる。入城するとガイドについて歩かなければならない。ペースは速くないのだが、もっとじっくり見たいところで移動しなければならない。もっとも自由行動にしたら渋滞してしまうからだろう。テラスまで行くと後は自由行動。テラスから見るふもとの景色が素晴らしい。ホーエンシュヴァンガウ城を眼下に見る。まさに画をなる景色だ。

 ノイシュヴァンシュタイン城の城主ルートヴィッヒ2世は、城の建築中、下のホーエンシュヴァンガウ城から見上げていたのだ。城が完成して間もなく、無駄遣いと散々言われ、心を病んだ王は謎の死を遂げる。しかし、100年過ぎた今、ドイツにとってはなくてはならない観光資源なのだ。ルートヴィッヒ王は天国でほくそ笑んでいるかもしれない。

 午後1時に城を出て、ホテルのレストランに行った。中はあふれんばかりのお客の数だ。団体客が入っているようだった。そこでテラス席に陣取って、またホワイトアスパラガスのベーコン巻きを注文した。混んでいるので、時間がかかると思い、持ってきた星新一のショートSFを読み始めた。すると

「日本人の方ですよね。相席よろしいですか?」

 と20代半ばの青年が声をかけてきた。大きなリュックをしょっているので、バックパッカーと思えた。

「どうぞ」

 と言うと、青年はリュックを降ろし腰をかけた。

「このレストランのおすすめは何ですか?」

 と聞いてくる。静かに過ごしたかったが、悪そうな顔には見えなかったので

「私はホワイトアスパラガスのベーコン巻きを注文しましたよ」

「それじゃ、私もそれにします」

 と言って、スタッフに注文していた。ドイツ語である。

「ドイツ語わかるんですか?」

 と聞くと

「少しです。大学ではドイツ文学専攻でした。もっぱらヘッセですけどね」

「詩が好きなんですか?」

「いえ、てっとりばやいからですよ。ドイツ文学は難しくて」

「正直な方だ。なんでこの時期旅行しているんですか?」

「大学を出て、商社で3年仕事をして、先月辞めました。そして、今ドイツをヒッチハイクしています。もっぱらテント泊です」

「若いね。私はもうテント泊はできないな」

「オレ、木村といいます。おじさんはどうして今ここにいるんですか? バックパッカーには見えませんが・・」

「私も木村といいます。以前に来た旅行を一人でやり直しています」

「ということは以前は一人じゃなかったということですね」

「まぁね」

「あまり詮索しない方がいいようですね。お城にはいかれましたか?」

「行ったよ。ここに泊まっているからね。朝一番の散歩はだれもいなくて気持ちよかったよ」

「えっ! ここ泊まれるんですか?」

「予約していればね。お城に近いから人気あるんだよね」

「でも、お城としてはどんなもんでしょうね。オレにはけばけばしく見えますが・・」

「けばけばしいか。そうとも言えるね。他のヨーロッパの城は無骨なのが多いからね。でも、フランスのロワール川沿いにあるシュノンソーとかは結構けばけばしいよ」

「フランスはまた別格ですよ。私はドイツの話をしています。ふもとのホーエンシュヴァンガウ城だって無骨じゃないですか」

「確かに、でもルートヴィッヒはフランスの城やフッセン近くにあるヴィース教会の影響を受けたんじゃないかな。日本だって姫路城は別格だよね。シンボルとしては重要なことだと思うよ」

「そうかもしれませんね。次はホーエンツォレルン城に行きたいと思っています。こことは真逆の城ですよね」

「そうだね。結構お城に詳しいね」

「はい、お城マニアです。日本100名城はすべて行きました」

「ほーすごい。私も今100名城歩きをしているところだよ。君とは話があいそうだ」

 と言っているうちに、ホワイトアスパラガスのベーコン巻きがでてきた。青年の分も出てきて、いっしょに食事をした。もし、自分に男の子がいればこんな感じだったのかもしれないと思った。娘はいるが、東京に嫁いで久しくなる。子どもをつくる気はないようで、じいちゃんにはなれそうにもない。

 食べ終わると青年は満足した顔をして去っていった。もしかしたらまた会えるかもしれないと思った。

 その後、部屋でゆっくりしていた。7時を過ぎ、さすがにお腹がすいてきたのでクルマを動かし、ふもとまで降りた。公共駐車場は村外れにある。そこから空いているレストランをさがした。するとイタリアンレストランが開いていたので、そこでボンゴレを食べた。期待はしていなかったが、結構おいしかった。スパゲッティはドイツ料理ではないからだろう。外はまだ明るい。

 9時に眠ることができた。TVは多チャンネルでドイツ語以外のチャンネルもある。どこかでスポーツ中継をしている。言葉が分からなくても楽しめるのはいい。

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