第3話 死後の世界
う~ん…………?
―――――あれ。なんだここ?
気が付くと、私は見覚えのない場所にいた。
辺り一面、360度見回してみても、真っ白で何も無い空間。
これ、創作の世界でよくあるような、死後の…………って、そうか。思い出した。私、あの時暴走して歩道に突っ込んできたトラックに轢かれたんだ。それで…………死んだ、ってこと?
下を向いて、自分の手や体を見てみる。恰好はあの時と同じ制服姿。体の方も、特に怪我などもなく普通に動く。
「あー、あー…………」
うん、声もちゃんと出る。
死んだっていう実感は全然ない。けど、あの時轢かれたっていうのは事実のはずだ。
私はとりあえず歩きだしてみた。何ひとつ状況が分からないし、どの方角に向かって行けばいいかも分からないから、なんとなく適当に、気が向いた方へと歩いた。
―――――それから、大体30分くらい経っただろうか。
ずっとしばらく休まずに歩き続けていたが、いまだに何も見つからない。どこまで行っても、ただ真っ白な空間があるだけである。
「はあ……。ちょっと疲れてきた。精神が」
死んでいるからなのか、不思議と体は疲れなかった。ただ、こうも果てしなく何もない空間をただ歩き回るというのは、流石にメンタルに来る。
空音なら、もうとっくに駄々をこねて地べたに寝転がりだすだろうな、と想像して、一人で吹きだす。
……あ。でもそっか。もしここが死後の世界なら、もう空音に会うことは出来ないのか。空音と一緒に帰るのも、ゲームするのも、話すのも。顔を見るのすらも。
…………そう思うと、途端に悲しくて、目の奥が熱くなった。
「なんで、なんの説明もなくただ一人で放っとかれるのよ……」
もしかして、こういう種類の地獄なのか?いや、だとしたら性格悪すぎないか?
てかそもそも私、地獄に落ちるようなことしてないし。
……なんか腹立ってきた。
もし仮に、地獄行きになるにしてももうちょい説明あるべきでしょ。それに弁明の機会も。こういうのって、エンマ大王的な人に審判を下されてから執行するもんじゃないの?推定無罪の法則はどこへ行ったんだ、ええ?
…………はあ。疲れた。ダメだ、気が動転している。ちょっと座ろう。
……でも、まさかずっとこのままとかじゃないよね…………?流石に?
―――――と、その時だった。
「…………!!…………!……!??」
「!!」
かすかに、誰かの……人の声が聞こえた。
そしてその方角を見てみると、遠くの方に、何か茶色っぽい物があるのが見える。
私は瞬時に立ち上がり、無我夢中で走り出した。
「……!もう…………!!……いつま…………!!」
近づいていくにつれ、少しずつその声が鮮明に聞こえてきた。どうやら、何かを怒鳴りつけているような、怒りが含まれた声のようだった。
そして、私が見た茶色っぽい物もはっきりと見えてきた。
あれは……ドア?なんで?
……ま、何でもいっか。とにかく、ようやく何かを見つけたんだ。それに、おそらく人も。これを逃す手はない。
数十秒ほど全力で走って、私はその茶色いドアの前までたどり着いた。やはり、その奥からは人間の声が聞こえる。どうやら二人の人間が会話をしている様子だが、その内容まではよく聞き取れない。
「うーん……」
とりあえず、そのドアを観察してみる。
まあ、特に何の変哲もない、木でできたよくある普通のドアって感じだけど……。一つおかしな点がある。まるでど〇でもドアのように、この茶色のドアだけが、ただポツンとそこに存在しているのだ。それなのに、中(?)から声が聞こえてくる。
……まあ、でももうなりふり構っていられない。ようやく見つけた、このよく分からない状況を変えられるかもしれない存在なんだから。
「ふぅーーー…………」
私は、覚悟を決め、大きく息を吐くと、ドアノブに手をかけた。
鬼が出るか蛇が出るか…………いざ。
恐る恐るゆっっくりとドアを開け、少し顔を出して中を見てみる。
するとそこには…………
「もうっ!!その巻で終わりにするって約束しましたよね!?これは絶対に渡しませんからね!!」
「ま、待ってくれメナちゃん!あと一巻!!あと一巻読んだらやるから!」
「ダメです、ちゃんと仕事してからにしてください!」
「いいとこなんだよすっごく!頼む!後生だから!!」
……床がたくさんのライトノベルで散らかりまくった部屋の中で、幼い少女(?)が走って逃げ回り、それを大人(?)の女性が追いかけまわすという、不思議な光景が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます