『大好きでした』
『異世界で会ったらそれは運命の出会いだって思うよね』
☆
なにやらさらっと重大なことがわかった気がする。
①ゴミというのは地球という星から輪廻のはずれを辿って迷い込む魂のこと。
②その魂が迷い込むことで、マナが無尽蔵に溢れ出し、世界のバランスが崩れる。
③終わりが近づくと魔王軍が凶悪化する。
④次に不自然な自然災害が起きる。
⑤それはゴミが急激に集まることの凶兆。
⑥終末をもたらす魔神を生む。
とりあえず把握すべきことはこんなところか。
まあ、どこまで本当かなんて今の段階ではおれにはわからない。
もしかしたらあの伝言板の内容の全てが嘘っぱちなのかもしれない。
だが、わからない。
なので、とりあえず、わからないことはわからないまま放置するしかないのである。
また新たに考えるべきことがあったときに考慮すればいいのだから。
「コル??」
次、と言いながら考え事をしていると、頭になにかが乗っかった。
カーバンクルだ。
おれの肩に移動してカーバンクルはなにかを催促するように鳴いた。
すかさず、その額の宝石の周りをなでてやると、目を細めて甘えるように喉をならした。
「コルンか。うんうん可愛いやつめ」
コルンはカーバンクルの名前だ。コルって鳴くからコルンである。
『ううう、私もなでたいです……。なで回したいです」
「……うーん。そうだな」
おれにはこんなにはっきり見えるというのに。
アマネがカーバンクルに触れても通過してしまうし、未練がましくうろうろしても一切反応しない。
あのイノシシもそうだが、もしかしたらこの世界にアマネが見えるのはおれだけなのだろうか。
なんか嫌な感じである。
アマネはどうかはわからんが、おれが普通にできることをアマネができなくてこういう残念そうになにかを諦めなければいけなくなる姿は見たくない。
なんでアマネが我慢しなきゃいけないんだ。
なんだか、かつての妹の姿と重なる。
病気じゃなければ——。
あのときの絶望感は、忘れられない。
だからだろうか。
なんとかしてやりたいと思う。
「あの白い世界ではできたんだ。なにかしら、方法はあるような気がするんだよな。アマネは心当たりないのか?」
『そうですね——。基本的に能力が上がるごとに知識も自然と増える仕様みたいです。なんというんでしょう。レベルが上がるごとに、封印が解かれたようにわかるようになるかんじです。ですから、あるいは、あるのかもしれません』
「ふーん。なら頑張るかな」
『え?』
「世界を救うとかそんな大それた理由なんかより、身近な女の子と仲良くなれるかのほうがおれには重要だからな」
『なんですかそれ』
クスとアマネは表情を崩した。
そうそれ。
その顔が見たいんだよな。
「とりあえず、リサイクルしますか。次のスキルは……うーん。いや、サツマイモ召喚できなくなったし、芋爆弾もなくなっちゃったからな。別のスキルになっちゃう可能性があるなら、慎重にならなきゃな」
『違いますよ。ちゃんと受け継がれています。正成さん、試しにコルンに爆弾を落とせと命じてみてください』
「ん? コルン、爆弾を落とせ」
「コル?」
すると、コルンがピョンと飛び跳た。
地面に降り立つと、コルンの体が光った。
すこし離れた場所で爆発が起きた。
樹海の樹が倒れる音が聞こえる。
鳥が飛びたち、ぎゃあぎゃあと騒いでいる。
「……おおうつまり、芋爆弾の効果はしっかりと受け継がれているのか。より使いやすいようにもなっていると」
『そういうことです。ですから、遠慮なくスキルをリサイクルしてください』
「そうだな」
ということで、思い切って片っ端からスキルをリサイクルしてみることにした。
結果。
——リサイクルレベルが上がりました。
——リサイクルによる習熟度があがりました。
必要なスキルをリサイクルしたことで、能力値の全部を表示できるようになりました。
さらに『鑑定』をリサイクルしたため、リサイクルの能力と統合し『神眼』を獲得。暗視などの様々な視認能力の獲得。レベルに応じた対象のステータスや能力、アイテムの効果説明などを、意識するだけで目から情報を取り入れ直接読み取ることが可能になりました。
『ファイア』『ウオーター』『ウインド』『アース』『ダーク』『ライト』の基本属性全部に加え、神術『ショックウエイブ』『ヒールブレス』をリサイクルしたため、詠唱破棄して使用する事が可能になりました。『体術』の効果により複数使用も可能です。
称号『英雄』と『リサイクル見習い』は『フェアリーハート』を融合し『再生の英雄』を獲得しました。
『マナ攻撃耐性』『状態異常耐性』は称号『再生の英雄』と『アマネの加護』により『再生の守護』に変態しました。
「お、お? なんだ、急に、すっごく、お腹が……空いて……うお、これやばいかも」
『正成さん!』
急激に体中の力がぬけて、前のめりに倒れ臥す。
いて、頭打った。
『ふわわ痛そう! はわわ!』
「う、うう、目が回る」
リサイクルしてスキルを覚えるたびに、急激に力を失っていく感じはした。
が、あまりにも唐突すぎて、対処ができなかったのだ。
「な、なにが起こったんだ」
突然倒れた主人を心配するようにコルンがぺろぺろと顔を舐めてくる。
なんとか仰向けになると、胸をはだけたまま、アマネが宙を浮いていた。
『正成さん……』
心配そうである。
「大丈夫大丈夫。しかし、なにが……」
目を眇めて、はだけた胸に表示されたディスプレイを見る。
もう辺りは暗い。見えるのは薪の明かりのせいだけじゃなく、暗視の効果もあるのかもしれない。う、でも見ているだけで気持ち悪い。
名前:楠木正成(35)
種族:ヒューマン
ギフト:『リサイクル』LV75
加護:『アマネの加護』(フェアリー)
使役:カーバンクルLV1
称号:『再生の英雄見習い』『魔術使い見習い』『法術使い見習い』『体術見習い』
技能:『神眼』『リサイクル・神術』『リサイクル・魔術』『リサイクル・法術』『リサイクル・体術』『リサイクル・元素』『資源再生』
耐性:『再生の守護』
能力値
体力:5/100(+89)
生成マナ:0(+89)
俊敏性:60
力:60(+3)
マナ耐性:0(+89)
器用さ:5
装備:ゴミ回収の作業着 防+1
ゴミ回収の作業パンツ 防+1
アディオスのスニーカー防+1
あれ、さっきまであった100000はどこに?
しかも体力が秒刻みで減ってるじゃないか。
おれは0になる直前に、ヒールブレスを唱えようとして——瞬時に回復した。
これは詠唱破棄の効果か。
脱力感は和らいだ。
が、今度は猛烈な空腹感と疲労感が襲ってきていた。
深い睡魔が、ずーんと意識を支配した。
「あ、だめだこれは。お、落ちる」
『正成さん!!』
叫ぶアマネの声が遠くなって、やがて——消えた。
☆ ☆ ☆
『正成さん! 起きてください』
どれくらい寝ていただろうか。
まず感じたのは地響きと揺れだ。
すぐに獣の足音と息が騒がしいことに気づく。
むくりと上体を起こすと、興奮したオオカミーーのような姿をした体長は5メートルはある獣が目の前に迫ってきた。
きゃいん、とオオカミはまるで見えない壁に当たったかのように跳ね返った。
「これは」
『コルンの結界です。正成さんが倒れたあとすぐに張って守ってくれていたんですよ』
「そうか」
おれのお腹の上でどうだといわんばかりにコルンが尻尾を振っていた。
起きて安心したようだ。
その頭をなでるとズシンとまたもや地揺れが起こる。
「地震か」
するとむくりと起き上がった先ほどのオオカミの上に影ができて——踏まれて潰れた。
それは緑の皮膚を茶色い体毛を生やす巨大な猿。いや人にも見える。
——ゴブリンキングLV13 魔王軍所属。Bランクモンスター。危険。ステータス差に大きな開きがある。
という表記が見えた。神眼の影響だろう。
ゴブリンキングの体の大きさは先ほどのオオカミの倍くらいはあるだろうか。
ゴブリンキングは、踏みつぶしたオオカミをかっかっと嫌らしく笑い、オオカミの頭を噛みちぎった。
オオカミの胴体を持ち上げ、首から滴り落ちる血をごくりと喉を鳴らして飲んだ。
今だ、と思った。
おれはコルンを抱き上げ、そろりと物陰に隠れようとして……
巨大な岩が飛んでくる。
バリンとコルンの結界が決壊し、さっきまでいた地面を岩がえぐった。
危なかった。
って。
飛んできた方向を見ると、ズシンともう一匹のゴブリンキング(LV15)が。
周囲にある大樹の幹のような太さの腕をぐっと地面へ下し、手を突いて飛びかってきた。
死ぬ。
それでも——目の前に全力で転がる。
ズシンと後ろにゴブリンキングが着地した。
後ろに逃げるより、ゴブリンキングの背中のほうに逃れた方が助かるかもという算段だった。
しかし、眩暈が起こる。
体力がまた切れたのだ。
なんとかヒールブレスを使い体力回復するがその一瞬の立ちくらみは致命的で——。
走りながら後ろを見ると、ゴブリンキングの上体が吹っ飛んでいた。
ベチャっと上体が落ちて、下半身は血を噴出させている。
「え?」
なにが起こったのか。
わからないが、原因を探る余裕はない。
仲間が殺られたことで、オオカミを食べていたゴブリンキングが興奮した声をあげた。
近くにあった大樹の幹を折り、それを武器にしておれに襲いかかってくる。
「あ」
しかし、いつのまにか肩ほどの長さのゆるふわとした青髪の少女がおれを守るように立っていた。
チャイナ服のようなものを着ている。
ゴブリンキングは上段構えで大樹を少女に向け振り下ろし——大樹ごとゴブリンキングの首から上が吹っ飛んだ。
少女を見ると、使ったであろう七節棍を腰に巻き付けているところだった。
すーはーと少女は一度胸に当てて、よし、と気合いを入れておれのほうを振り返った。
どっかで見たことある顔のような。
変だな。異世界に知り合いはいないはずだが。
が、次の瞬間おれはもっと驚くことになる。
「え、もしかして、正成くん?」
それはまぎれもなく、おれの名前だったからである。
「な、なんでおれの名前知ってるんだ?」
「うそ……。夢? こんなの……こんなの!」
「は?」
おれの胸に飛び込んできた。
突然のことに支えきれず、背中から倒れてしまう。
「いててて」
「ずっと大好きでした! 夢でも良い! こんなの運命じゃん絶対!」
『は、はうっ!!!!! 何事!!!!!』
な、なにが起こっているんだ一体。
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