第14話 風前の灯
国王陛下の言葉は続く。
「あなたがこれほどの人だとは思っていなかった。残念で仕方がない。特にあなたの失政については、領民から苦しみの声がわたしのもとにも届いてきているのだ。『このような贅沢をして、われわれを苦しめる領主は処断すべき』という声もこちらに届いてきていて、しかもその声は高まってきている。この声は無視することはできない。わたしとしても悩んでいたのだが、結局のところ、あなたを処断するしかないという結論に達した」
国王陛下は、淡々とそう言った後、王妃殿下の方を向く。
そして、
「わたしは残念な気持ちだが、お前も残念な気持ちだろう」
と言った。
王妃殿下は、
「わたしもあなたの悪い評判を耳にするようになり、なぜあなたとオーギュドリュネの婚約に賛成してしまったのだろうと思うと後悔しきりです。オーギュドリュネがかわいそうでなりません。わたしは処断することはなるべくならば避けたいと思っていました。しかし、オーギュドリュネを始めとしたたくさんの人たちが苦しんでいるということであれば、残念ではありますが、処断するのは致し方ないと思います」
と涙ぐみながら言った。
王妃殿下までがわたしの処断に賛成するとは……。
わたしとしては、国王陛下とオーギュドリュネ殿下は、わたしの処断で意見は一致したとしても、王妃殿下は反対するのでは、という期待を持っていた。
王妃殿下は、国王陛下とオーギュドリュネ殿下に比べると、と心がやさしい方だと聞いていたからだ。
反対はしなくても、少なくとも躊躇はすると思っていた。
そこで、わたしが王妃殿下にとりなしをお願いすれば、処断を避けられるのでは、という思いがあった。
しかし、王妃殿下は、処断に賛成してしまっている。
これではもうわたしが助かる道はない。
わたしの生命は風前の灯となった。
気力がどんどんなくなっていく。
「わたしはお前を苦しめてしまったな。申し訳ない」
国王陛下は王妃殿下の頭をやさしくなでる。
そして、国王陛下は、
「お前にもつらい思いをさせてしまったな」
とオーギュドリュネ殿下にも声をかける。
「父上……」
声をつまらせるオーギュドリュネ殿下。
継母もルゼリアも涙を流している。
なんという人たちだろう!
わたしはこの光景を見ていて、だんだん腸が煮えくり返ってきた。
なぜわたしだけを悪者にする!
結局この方々は、わたしが言う「傲慢」と「気品」の違いがわからないのだ。
だからこそ、ここで言いがかりをつけるのだ。
そして、ボワデシャール公爵家に限らず、貴族であれば贅沢をして威勢を示すべきで、それをもって失政というのも、言いがかりでしかない。
それにしても継母とルゼリアにも腹が立つ。
二人とも泣いている。
これが処断をされようとするわたしを憐れんでのことならまだわかる。
しかし、この二人が言うのは、
「国王陛下、王妃殿下、オーギュドリュネ殿下、このような子とオーギュドリュネ殿下と婚約させてしまい、申し訳ありません」
「このようなどうしょうもない姉と婚約していた間、さぞつらかったと思います。申し訳ありません。国王陛下、王妃殿下、オーギュドリュネ殿下、これからはわたしがオーギュドリュネ殿下の為に尽くしてまいります」
とこの三人に迎合する言葉ばかりだ。
心の中では、わたしのことをあざ笑っているのに違いない。
わたしがそう思っていると、国王陛下は、再びわたしの方を向き、
「あなたの母親や妹は、わたしたちに詫びてきている。それに比べてあなたは……。処断をされる前に、この二人に詫びる気持ちはないのかね?」
と言った。
冗談ではない!
この二人に対して、わたしが詫びることなど何もない!
そして、こんなところで処断などされてたまるものか!
わたしの心の中に反骨心が湧き上がってくる。
そして、
「国王陛下、わたしが何を言っても、もうお聞き届けることはないと思っております。しかし、それでも言わせてください。わたしは、この二人とは長年対立してまいりました。わたしをいつもイジメていたこの母と、わたしに心を開くことがなかったこの妹に対して、詫びることはできません。わたしの方こそ、この二人には苦しめられてきたのです。わたしとしては、この二人にこそ詫びてもらいたいと思っております」
と厳しい表情で言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます