第13話 処断を避けられる可能性

 オーギュドリュネ殿下は。わたしをフィリシャール公爵家から追放し、その後、処断することを国王陛下に奏上した。


 わたしは、一瞬、オーギュドリュネ殿下が言った処断という言葉ができなかった。


 何のことだろう?


 そう思った。


 それほどわたしにとっては意外な言葉だった。


 しかし、わたしはそれが意味するところをその後、すぐに理解をした。


「処断」


 それはわたしの生命を強制的に奪うことだ。


 わたしはボワデシャール公爵家からの追放はありうる話だし、修道院に送られることも想定はしていたのだけれど、それ以上のことはないだろうと思っていた。


 オーギュドリュネ殿下は、その想定を越えた奏上を国王陛下にしている。


 いくらわたしに腹を立てているとは言っても、行き過ぎていると思う。


 国王陛下は、まさかオーギュドリュネ殿下の処断という奏上を受けることはないだろう。


 ボワデシャール公爵家からの追放、修道院送りもわたしにとっては、とてもつらい話。


 でも生命を奪われるよりは、はるかにましだと思う。


 ただ、先程の国王陛下とオーギュドリュネ殿下の様子を見る限りでは、国王陛下は、オーギュドリュネ殿下の言うことを予想していたように思える。


 とすれば、もう国王陛下は、わたしを処断することに決めているのでは?


 そうなれば、もうわたしの生きる道はない。


 しかし、まだ処断をすると国王陛下が言ったわけではない。


 可能性は少ないものの、処断を避けられる可能性もある。


 最後まで希望を捨ててはいけない。


 国王陛下がわたしを処断しないことを強く願っていこう!


 わたしが心の中でそのように思っていると、国王陛下は、


「オーギュドリュネよ。お前の奏上は理解した。理解はしたが。いざ処断をするとなるとつらいものだ。お前もそうだろう」


 と言った。


「おっしゃる通りでございます。様々な問題の為、そのような決断をしなければならないのですが、それでもルナディアーヌはわたしの婚約者だった人間です。わたしとしても、身を切られるほどつらいことなのでございます」


 オーギュドリュネ殿下はまた涙声でそう言った。


 先程も涙声で話をしていたし、今も涙声だ。


 わたしのことを惜しんでいるのかもしれない。


 しかし、それは表面上のことだろう。


 国王陛下や王妃殿下の前なので、自分の心のやさしさを強調したいのだと思う。


 もし二人がいなければ、もっと冷たい言葉をわたしにかけていたと思う。


 それに、わたしのことを心から惜しんでいるのであれば、処断するという結論にはならないはずだ。


 もう心はルゼリアのものだろう。


 悔しい気持ちが湧き上がってくる。


 国王陛下はわたしの方を向き、


「わたしは名門ボワデシャール公爵家とわが王室のつながりを深めたいと思っていた。そこで、ボワデシャール公爵家との縁談を進めていた。ボワデシャール公爵家にはあなたとルゼリアの二人の令嬢がいて、どちらをオーギュドリュネの妃として迎えるべきか、という話があった。わたしとしては、長女であるあなたがいいと思っていたのだが、王室の中には、ルゼリアを推す声もあったのだ。通常だとこのような場合、長女が優先され、次女やそれ以降の女性が妃候補になることは少ないのだが、今思い返してみると、ルゼリアを推していたものたちは、あなたの傲慢さや領内での失政を聞いて、妃としての資質がないと思っていたのだ。わたしはそのものたちの意見を聞くつもりはなかったのだが、このものたちが言う通り、あなたについては妃としてふさわしくないと思わざるを得ない情報ばかりがわが王室に入ってくる。そして、オーギュドリュネまでルゼリアを婚約者に推すようになった。それで、わたしたとしても、あなたとの婚約を破棄し、ルゼリアと婚約するという方針に切り替えざるをえなかったのだ。わたしはオーギュドリュネとあなたが婚約する時点で、もう少しあなたについての情報を入手すべきだったと思っている。あなたのような人をオーギュドリュネと婚約させてしまったのは、全く恥ずかしい限りだ」


 と言った。

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