第3話 婚約者への反撃

 国王陛下と王妃殿下は、厳しい表情をしたままオーギュドリュネ殿下とわたしのやり取りを見守っている。


 二人はオーギュドリュネ殿下のわたしへの批判をそのまま受け入れているのであろうか?


 わたしとしては当然受け入れていないことを願いたい。


 しかし、この場所にいるということは、オーギュドリュネ殿下の批判を受け入れてしまっているということだろう。


 とすればここで何を言っても無駄なのかもしれない。


 でもこのままわたしが悪者になってしまえば、婚約を破棄されるかもしれない。


 それは困る。


 ここは攻勢あるのみ!


 攻め続けて、オーギュドリュネ殿下を圧倒するしかない!


 わたしは、


「オーギュドリュネ殿下はわたしのことを厳しく批判しておられますが、わたしにどうしろとおっしゃるのです? わたしのことを傲慢で人の気持ちを理解しない人間だとおっしゃっていますが、わたしはこれから王妃になっていく人間なのです。それくらいの強さがなければ、下のものにあなどられてしまいます。気品があると言って褒めていただけるのであればともかく、なぜそのような言葉で批判をされるのか、理解ができません!」


 と言った後、高笑いをする。


 まだ百パーセントというわけにはいかない。


 それでもいつもの力強い高笑いが戻り始めている。


 オーギュドリュネ殿下は一瞬たじろぐ。


 しかし、すぐさま体制を立て直すと。


「わたしの言葉を耳にかさないどころか、反論をしてくるとは……。わたしはきみのそういうところが傲慢だと言っているのだ!」


 と言ってくる。


「だからわたしは、傲慢だからと言って批判するのではなく、気品があると言って褒めてほしいと申しておるのです」


「全くきみという人は……」


 オーギュドリュネ殿下はあきれたという表情をしている。


 このままいけばオーギュドリュネ殿下を圧倒できるかもしれない。


 圧倒しさえすれば、オーギュドリュネ殿下から婚約破棄を申し出ることはないだろう。


 そして、この婚約はオーギュドリュネ殿下とわたしの間のものだから、国王陛下も王妃殿下も婚約破棄のことを思っていたとしても、オーギュドリュネ殿下を差し置いて婚約破棄を進めることなないだろう。


 そう思っていた時、オーギュドリュネ殿下は、


「まあ、きみの反応はだいたい予想できた。わたしとしては、きみに、『今まで、婚約者としての振る舞いができず、申し訳ありませんでした。これからは傲慢な態度はとらず、心やさしい人間になるように努めます』と言ってほしかったのだ。しかし、それは無理だということを理解した。もちろん、今さらそう言ってもらっても遅かったのだが。これからのきみの人生にとっては大切なことだ。その言葉がなかったのは残念でならない」


 と言った。


「『今さらそう言ってもらっても遅かった』とはどういう意味でしょうか?」


「知りたいか?」


「知りたいです」


「そう言うのならば教えてあげよう」


 オーギュドリュネ殿下は今までと違い、猫を撫でるような声になる。


 わたしは寒気がした。


 それとともに、思いたくはなかったことが心の中を支配していく。


 婚約破棄のことを言い出すのだろうか?


 いや、そうであってほしくはない。


 わたしはオーギュドリュネ殿下の婚約者だ!


 そう思っていると、オーギュドリュネ殿下は、


「きみたちの出番がやってきた。入りたまえ」


 とドアの方に向かって言った。


 きみたち?


 誰のことだろう?


 わたしはドアの方向に向く。


 すると、二人がドアを開けて入室してくる。


 その二人は、ここにはいるはずのない女性だった。

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