ある月夜の晩
森川海守 もりかわうみまもる
ある月夜の晩
お月様が柔らかい寝息をたて、
風が、さやさやとほほを撫でるころ、
一人の釣り人、海辺に着く。
「さあ!今日は何が釣れるだろう?」
小さく呟いた釣り人、
いそいそと仕掛けを作る。
心ははや、大物がさおをしならせる、
そんな、心楽しい情景を思い浮かべて、気もそぞろ。
「さあ、第一投!」
「ポチャン!」
赤い電気ウキが、波にゆらゆら揺れ、
ウキが時折、ちょこちょこと動く。
さおを動かすと、モゾモゾとした魚信。
小魚が餌を突っついているようだ。
「さあ、大物よ!餌に食らいつけ!
小魚を押しのけ、
口を大きく開けて、餌を飲み込め!」
空を見上げれば、星がまばたき、
互いに囁(ささや)き合う。
「今日も、釣れませんわね」
と、その時、
赤いウキがぐっと、海の中へと沈み、
淡い赤色が波間に漂う。
「大物だ!」
手に伝わる重い引き。
リールを巻くも、巻いても、巻いても
なお巻けない。
「な、なんだろう?」
右手が疲れた釣り人、糸をつかみ、
ぐっと岸にたくし上げる。
月夜に浮かび上がった針に掛かる奇妙な物体。
恐る恐る釣り人は、電灯を近づける。
「なんだ、岩じゃないか」
突然、電灯に照らされ、
ゴツゴツしたその醜い黒い岩は、
いかにもバツ悪そう!
「今日もだめかなあ!?」
星々も、やがてまばたきを止め、
街の灯も、ポツン、ポツンと消えていくころ、
モソモソと釣り人、家路(いえじ)につく。
ある月夜の晩 森川海守 もりかわうみまもる @morikawa12
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