穏やかな終わりに
駄文製造機X
第1話 ”16歳になったら”
生まれ変わりに感謝をしよう。
もう一度チャンスを貰ったから。
でも私のしたいことは、ただ1つで。
だから、うん。
何があっても。
どんな形でも。
大切にしたいと思うよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
死んだと思ったら、赤ちゃんからやり直せた。
別の街の、別の時代の、別の家族の、別の人。
同じなのは性別と国と天皇様。
私は病気だった。
血液の癌で、もう手の施しようがないらしかった。
ショックだった。
だって私はまだ14歳だった。
したいこと、まだいっぱいあった。
まだUSJいってないし、スキーもしてないし、高校生してないし、恋愛だってしてないし、ワン◯ースだって完結してない。
でも、私は15歳にはなれないらしい。
絶対ワ◯ピース完結してないじゃん。と思った。
小学生の時の5年後に完結が本当なら間に合ったじゃん。
ヒ◯アカなら終わったのに。
なんて考えて、親の涙で現実に戻された。
ああ、ほんとに死ぬんだ。
だって、厳しくて優しいお父さんがあんなに泣いてるの見たことないし、あんなに黙り込んでいるお母さんも見たことがなかった。
つまり、その時は現実感がなくて、普通に次の日も学校に行った。
「本来ならもっと動けないはず」
そう言われても動けたから学校には行った。
そしてお別れを告げて、
「ラ◯ンで連絡を取り合おう」
と正直、それまでとそんなに変わらない状況にはなった。
そして、ある時、ふと、思った。
これが後半年ない。というか後四ヶ月くらいだった。二ヶ月スルッと経っていた。
不思議なくらい私は元気で
「できるだけ入院したくない」
という私の意志を汲んで私はできるだけ学校に行って、できるだけ家にい続けていた。
でも、少しずつ身体を動かすのが辛くなっていった。
こう、だるい時の感覚がドンドン重くなって、寝ても寝ても治らない感じ。
そうやって死ぬんだ。
そこでやっと実感した。
ああ、この辛さは治らないんだって。
……死にたくないなぁ。
私は最近は急に感じるようになった死の気配。
少し、吐く息も独特の臭さが出るようになって泣きそうになった。
だってこれ、ひいじいちゃんが死んじゃう前に会った時にしてた独特の匂いだった。
”死臭”
ああ、内臓から壊れているのか。とちょっと泣いて、死に抗うように外に出た。
ほら、身体を動かしたら、まだちょっとでも元気になるかなって思って。
外に出て、空気をいっぱいに吸って。
足を引きずるように大通りに出て。
元気そうな人が歩いてて。
……もう、ここで死んじゃおっか。
そう、ふと思った。
だって、これからもっと身体が動かなくなって。
死臭を撒き散らしながら死んでいく。
私まだ、14の女の子なのに。
そんなの耐えられない。
なら、まだ、きれいなうちに。
身体が車に吸い込まれるように動いた。
……瞑目
「ばっか」
後ろから声、即座に抱きしめられる感覚、そして後ろに倒れる。
「何をしてるんだッ!!!」
その人の印象は、どうせ、私みたいに辛い目にはあってないんだろうなって、まっすぐに未来を信じているような人だった。
スーツを着て、でも似合ってないくらいに若い人。
私は自分の状況を彼に保護された後のファミレスで話した。
彼は黙って聞いて。そして言った。
「わかった。じゃあ、俺がお前のやりたいことできるだけ叶えるからもうちょっとだけ生きよう」
まっすぐに未来を見つめていた。
反抗心がないと言ったら嘘になるけど、なんだかこの人の前では後ろ向きなことを言っている方がダサいような気がした。
「わかったよ。できるだけ叶えてね」
そして彼は有言実行した。
なんでこんなことをしてくれるか聞いてみた。
「俺、親が死んじゃってて、たくさん後悔したんだ。だから、”やろう”と思ったことはどんなに変でもやろうと決めたんだ」
びっくりした。
彼は奇しくも14歳の時、台風で発生した土砂崩れで家族を失った。
古い少し大きな家に住んでいた彼は、子供部屋として使っていた部屋が居間や両親の寝室から離れていて助かったらしかった。
「タクミくんもちょー不幸じゃん」
「君ほどではないさ」
後一ヶ月で宣告された期限だって時には、大分仲良くなっていた。
正直、私は彼、そうタクミくんが好きだった。
「結婚してくれる?」
「……君が16歳になったら」
「はは。じゃあ無理だ」
タクミくんがどういう思いでそう返したのか。私は知りたくなかった。
それは遠回しにフッたのか。子供は無理だってだけのことなのか。
ぼかしたかった。
でも
「正直、子供に惹かれる大人は悪いと思う」
「うん」
「でも、大切に思っているのは本当だ」
「……うん」
「だから」
タクミくんは私の手を握って押し黙った。
そういえば、大分細くなってしまった。
まるで老人のようにシワシワで生気がない。
「どうか伝わって」
「ふふ。わかんないよ」
タクミくんは泣き笑いの顔で小さく笑った。
ああ、好きだな。
そう思った。
そして、そこから愛のチカラか、根性か、ただ医者が多めに期限を言ったのか。
2ヶ月後、私は死んだらしかった。
直前まで意識があって、家族とタクミくんに看取られたのだけぼんやりと覚えてる。
もうその時は意識をちゃんと保つのも難しくて記憶が曖昧だ。
私は私の墓の後ろに掘られている没年月日を見ながら思い出していた。
今はなんと16歳。
生まれ変わった後の両親は貧乏で、厳しくて、なんとかお金を貯めてやっとここにこれた。
無理やり来てやろうかとも思ったけど、グー◯ルに聞いたら徒歩で7日くらいかかるらしくて流石に諦めていた。
身体も子供でさらに厳しそうだし。
タクミくんの居場所はなんとか探偵を雇って探した。
これもお金が大分かかってしんどかった。返せ私の新聞配達代。
探偵は割と関係性は聞いてこない。フルネームを覚えていたら、割と簡単に見つかった。
いや、若い時に住んでいたある程度の場所を知ってたのも大きいのかもしれない。
しらんけど。
そうしてやっとこれた。
やっとあえた。
タクミくん。会いたかったよ。
16歳になったよ。
本庄匠さん。
86歳。
私の、最愛の人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます