第48話
「僕と同じ匂いしますね、宮さん」
私の頭に鼻をつけてそんなことを言う変態の抱き枕に、私はなっている。
「嗅ぐな、嗅ぐな。早く目を瞑ってくれ」
「だって、寝るの勿体ないんですもん。寝たら明日になって、明日になったら仕事に行かなくちゃいけない。少しの間でも離れるの、嫌です」
「勿体なくないって。私をここに繋いでいるうちは、心配することないだろうに。神谷がそうしたんだろ?」
「宮さん脱出の達人とか言ってたし、逃げ出されちゃいそうですもん」
「ただの自負だって神谷も言ってたじゃないか」
「言い聞かせてたんですよ、自分に。じゃないと不安で仕方がないんです」
「………じゃあ、安心させるようなことを言ってあげようか」
神谷の腕が一瞬緩んだ隙をみて、胸から顔を離す。見上げるとパチッと目が合った。
「……なんですか?」
神谷が呟く。
私は答えた。
「神谷のところ以外に、行くとこなんかないよ。
……………なんつって」
「………うわあ、宮さんにからかわれた。僕ほんとに不安なのに」
まあまあ、そう落ち込むなよ。その心配は杞憂だ。
「ちゃんとお利口にして待ってるか、安心して仕事してな。まあもし私に信用がないんだったら、ここで何を言ってもしょうがないけどな」
「好きなんですから信用したいに決まってますよ………」
「それなら信用してよ。買ってくれたかわいい服着て待ってるから」
神谷が照れた。
「からかいすぎですよ宮さん」
そう言われる自覚はあった。私は少々神谷をからかいすぎるきらいがある。反応が面白くてついだ。
しかしいくら神谷をおちょくることはあっても、裏切って黙ってここを離れるようなことはしない。
その時が来れば一声かけるつもりだ。
何より、今日外に出たとき、逃げようと思えばいつだって逃げれた。
足枷のスペアキーの在り処にしたって目星はついている。確かめてはいないが、おそらく。
それでもまだここにいるのは私の意思だ。
「分かりました。大人しく仕事に行ってきます」
神谷は納得したようで、私を抱き寄せると二人とも眠りについた。
「おやすみ」「おやすみなさい」
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