第47話

そして、また夜がやってきた。




お風呂上がり、ソファーで一息ついていた私の隣に神谷が腰掛けた。期待の眼差しを向けて手を握ってくる。



神谷は喋らなくても、顔には何が言いたいのかが書いてある。



───抱き枕になるって言ってくれましたよね??




これだ。




忘れてくれたって良かったのに、ぜったいに譲れないと、一歩も引かない目をしていた。



これじゃあこのまま夜が明けてしまうぞ。



「ああ、そうだったな。神谷が寝るまで子守唄を歌う約束だったな。忘れてた忘れてた、眠るまで見ててやるから横になれ」




とぼけてそういうと、神谷はあからさまに

むっすりとした顔をした。


好青年と形容されそうな整った顔立ちは、みるみる幼さを取り戻し完全に私を睨んでいた。



「そんな約束じゃありませんでした!

そ、い、ね! だ、き、ま、く、ら!!忘れたとは言わせません!」



一文字一文字、区切るように強く声に出す神谷。

この約束ってそんなに重要なものだったのか?



「さあ!ほら!」



と子供のように手を広げている。


私が微動だにしないでいると


「僕眠たいんですけど。はやくーー」


と言ってしつこくせがんでくる。



正直、私にとってただの口約束で戯れに過ぎなかったあの約束が、思うよりも効力を発揮しているようで、折れるほかなかった。



「もう、わかったよ……」



不本意ながらも神谷の胸に体を寄せ、腕を背中に回すと、ギュッと身動きが取れないくらいに抱きすくめられた。




「やった、やっと来てくれた」



どくどくと大きな脈拍が神谷から伝わる。

そして、ひょいとお姫様抱っこをされ、寝室へと運ばれた。



優しくベッドへおろされ、神谷は約束通り私を抱きしめたまま一緒に横になった。

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